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「……怖いね。目をつけられるって、どういうことだろう」
「それについても知ってるんだが……知らないほうがいいと思う」
その言葉も、昨晩お祖母ちゃんが言っていた。知らないなら知らないでいいと。私はキョウスケの肩を揺する。
「ちょっと、教えてよ、ここまで話したんだから」
「ええ、いいのか? 聞いて後悔してる俺が止めてんだぜ」
「聞いただけで呪われる、とか?」
「いや、そうではないんだけど」
歯切れの悪いキョウスケに、私は少し苛立ってきた。
「教えないと、瀬田川に言うよ。あることないこと」
「ちょ!? お前やめろって! 分かったよ、言うよ」
キョウスケは頭に手をやりながら、やれやれといった様子でその場に座り込んだ。私も追いかけるように腰を下ろす。
「……怖くなっても、知らねえからな」
「うん、平気」
親指を立てて返事を返す私を、キョウスケは呆れたような顔で見た。そして一息つくと、また小さな声で話し始める。
「……歌うと、目をつけられるらしい」
「歌うと? って、何を?」
「詳しくは分からん。『昏睡のスイ』にまつわる歌があるらしい」
「え、おかしくない? 知らない歌なんて歌える訳ないじゃん。それなのに、どうして怖がるのよ」
キョウスケは真剣な表情になり、鋭い眼差しを私に向けた。
「昏睡のスイを認識するとな、どういう訳か、どこかでその歌を耳にして、いつの間にか覚えちまうらしいんだ」
緊張感の無かった私だが、これには総毛立つ感覚に襲われた。日に日に夏に近付いている温暖な気候であるのに、私達の周囲だけが寒波に見舞われたかのように冷たく感じられ、身体が震えた。
「なに、それ」
「怖くね? もう俺、それ聞いてから音楽聴く度にハッとしちゃうんだよ」
「うう……私も、そうなりそう……」
「だから、知らないほうがいいって言ったんだぜ?」
私の身体は後悔の念に駆られ、震えることしか出来なかった。中途半端な好奇心で首を突っ込んでしまったのだから、自分の責任だ。私に請われて仕方なく話したキョウスケを責める気にはなれなかった。
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