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どうしよう。どうしよう。今、目を開いたら、そこになにかいるかも知れない。そう思うと、瞼が鉛のように重かった。私が震えていると、また歌声が響いてくる。さっきよりも、鮮明に。
「――スイ、スイ、スイ♪ コーンスイのスイ♪」
子どもの声、女の子の声のように感じられた。
かといって幼児というにはしっかりしているし、女性というには幼い。要するに、私とそう変わらない年端の女の子の歌声のように思えた。
これはもう確実に、キョウスケが言っていた『昏睡のスイにまつわる歌』を聴いてしまっている状況に他ならなかった。私はこのメロディを知ってしまったということになる。
あーあ。聴いちゃったよ。知っちゃったよ。
そう気付いた時、諦めの境地なのか分からないが、あれほど重かった瞼をパッチリと開けることに成功した。少し目が慣れた寝室に特に異変はないように見える。
「――スイ、スイ、スイ♪ コーンスイのスイ♪」
また聴こえた。脳に直接イヤホンをされているかのように、ねっとりと記憶にこびり着くようなメロディだ。耳を塞いだとて詮無いことは明白だ。だから私は逆に、耳をそばだてて聴いた。
その声はどうやら、襖の向こう、居間の方から聴こえてくる。
いや、そこにはお母さんがいるはずじゃあ……。
心配になった私は、物音がしないよう努めて静かに、襖の前へと移動して、隙間から隣室を覗き込んだ。
――心臓が、止まるかと思った。
お母さんの横に、人影があるのだ。
子供だ。サスペンダー付きのスカートを履いた、女の子だ。
長い前髪が口元意外を覆い隠してしまっているから、顔は見えない。
しかし、身体も、白い手も、すらっと伸びた足も、鮮明に見える。
キョウスケ曰く悪霊だと言っていたが、霊というのはこんなに可視出来るものなのだろうか。消化できない程の恐怖にあてられた私は、何故か冷静に目の前の光景を分析していた。
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