7人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
前髪の下の口が動く。すると歌が聴こえる。
「――スイ、スイ、スイ♪ コーンスイのスイ♪」
この子だ。やはりこの子が歌っているんだ。私が固まっていると、お母さんの横に立っていた女の子が、ゆっくりとしゃがみ込み、お母さんの耳元に向かって手をかざした。そして再び、
「――スイ、スイ、スイ♪ コーンスイのスイ♪」
と歌った。それこそ、お母さんの頭に刷り込むように。
私は恐怖のあまり動くことが出来なかった。それに変に物音を立てて、女の子に気付かれるのも嫌だった。その場にいることしか出来なかった。
すると女の子が、突然スッと立ち上がる。そしてまるで重みを感じない動作で、ふわっと踵を返し、私とお母さんに背を向ける体勢になった。
帰るのだろうか。私が安堵しかけた、その時。声が響いた。
「……ふたりとも、覚えたよね」
その瞬間、女の子はスッと姿を消した。その場から煙のようにして消えてしまったのだ。
ふたり……とも?
お母さんに向かって歌っていたはずなのに。
それが私にも向けられていたのだと察した時、私は極度の緊張のせいか気を失ってしまった。そしてそのまま、朝を迎えるのだった。
最初のコメントを投稿しよう!