巫≪かんなぎ≫と幼き妖狐≪ようこ≫

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巫≪かんなぎ≫と幼き妖狐≪ようこ≫

「ああ、()いなぁ。金色(こんじき)は可愛い、癒される」 「れ、煉夜(れんや)さ、んぷっ」  煉夜(れんや)はたじたじと自分の名を呼んだ金色(こんじき)——その名の通り、金色(きんいろ)に輝く髪と()()()()()()()()を頭に生やした少年を、(ふく)らみのある自分の胸へ()き込んだ。  ふわりと陽だまりの匂いが鼻孔(びこう)をくすぐり、両の腕に納まる小さな身体から幼子特有の高めの体温が伝わる。  ぬくもりが心地良く、いつまでもこうしていたい、と思えた。  だが——幸福な時間は、次に聞こえた声によって無情にも終わりを告げる。 「(あるじ)様。お楽しみのところ申し訳ないのですが、そろそろ……」  背後から「こほん」と、(わざ)とらしい咳払いが一つ。  振り返れば、狩衣(かりぎぬ)を着た背の高い男が立っていた。  髪は燃え立つ炎のような真紅(しんく)。  側頭部に羽根の髪飾りが添えられている。  開かれた切長の瞳は(つや)のある暗い赤、赤銅(しゃくどう)の色だ。 「守橙(しゅちょう)、邪魔するな。私は今忙しい」  煉夜(れんや)守橙(しゅちょう)——自分の〝式神(しきがみ)〟から顔を背けて金色(こんじき)の頭を撫でた。  絹のように(すべ)らかで触り心地の良い髪だ。  耳はもふもふしていて(やわ)らかい。  顔を(うず)めたい。 「(ぼう)()でてるだけでしょう。務めを果たさねば、またどやされますよ」 「嫌だ、行かぬ。代わりなら(いく)らでもいるだろう」 「主様の代わりが務まる者など早々いません。ほら、駄々をこねてないで行きますよ」  煉夜(れんや)(まと)った白衣(はくえ)の首根っこを掴まれ、金色(こんじき)から引き離された。  狭い家屋の中、すぐ近くにある外へと続く戸に引き()られて行く。  この式神、主人に対して無礼である。  振り(ほど)こうにも腕力では勝てぬ。 「煉夜(れんや)さん、守橙(しゅちょう)さん、気を付けて行ってらっしゃい」  金色(こんじき)が手を振り見送っている。  何とも良い笑顔を浮かべて。  離れるのが恋しいのは自分だけなのか。  やはりくっつきすぎて鬱陶(うっとお)しいと思われてるのだろうか。  無性に(さび)しい気持ちとなった。 「嗚呼(ああ)……金色(こんじき)……っ!」 「今生の別れじゃないんですから。帰ったらまた存分に()でれば良いでしょう。(ぼう)、留守を頼みます」 「はい!」  (すが)る様に手を伸ばすも今度は担ぎ込まれてしまい、()(すべ)なく連行された。  ——務めとして()された、(あやかし)(はら)(たたか)いへと。
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