巫≪かんなぎ≫と幼き妖狐≪ようこ≫

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 時は平安の時代。  京に(みやこ)(きず)かれ、貴族の力が強くなった王朝では日々権力争いが繰り広げられる。  そんな表舞台の裏側——。  いつの頃からか、世には〝(あやかし)〟または〝(もの)()〟と呼ばれる魑魅魍魎(ちみもうりょう)怪異(かいい)跋扈(ばっこ)するようになっていた。  怪異が現れるは、逢魔ヶ刻(おうまがどき)。  人々が固く門戸を閉ざすその刻限。  煉夜(れんや)守橙(しゅちょう)と共に、夕闇の支配する森の中を駆けた。  空には満ちた月が煌々(こうこう)()り、満天の星と共に輝いている。  こういった夜は決まって(あやかし)(ざわ)めく。  月明かりの届かぬ暗がりには陰鬱(いんうつ)とした気が()れこめ、風が木々の葉を揺らして「ざわざわ」と不気味な音を(かな)でていた。 「このところ(あやかし)どもが騒がしいな」 「凶事の前兆とも取れますね。噂では出雲(いずも)にあった災厄(さいやく)の封印が解けたそうですよ」 「出雲の災厄……か」  煉夜(れんや)は都を守護する神々に支える(かんなぎ)。  (たまわ)った神威(しんい)により、(なが)き時を生きて来た。  出雲の災厄かあったのは幾年(いくとし)だったか——と思考を巡らせるが、大分昔の事で朧気(おぼろげ)にしか思い出せない。  ただ、単なる災厄(さいやく)では無かったように思う。 ((むし)ろ……災厄と呼ぶには、あまりに人に有益(ゆうえき)な何かであったような……。  ……何か、大切な事を……私は忘れているような……)  と、疑問が胸に落ちた。  月が雲に覆い隠され、夜の闇が増して行く。  途端に(よこしま)な気が強くなり、煉夜(れんや)は足を止めた。  頭頂部で(まと)めた黒髪が(なび)いて視界に映り込む。  煉夜(れんや)は、はらりと眼前に舞った髪を払い退けると、己の得物(えもの)——長い()の先に、弓張り月の形をした刃を取り付けた薙刀(なぎなた)を構えた。 「守橙(しゅちょう)、来るぞ」  告げると同時に、木の合間から有象無象(うぞうむぞう)妖共(あやかしども)が現れた。  姿形は千差万別。  「グギャギャギャ」「ギチギチ」と言った奇声を発している。  知性があるのかすら怪しい。 「今宵(こよい)小物(こもの)が大漁ですねぇ」  守橙(しゅちょう)が胸の位置に右手を(かか)げる。  と、手のひらに炎が生まれ、それを向かってくる(あやかし)の群れへ放った。  炎は一瞬にして広がる。  しかし、守橙(しゅちょう)の〝神炎(じんえん)〟が燃すのは邪気(じゃき)を宿した(あやかし)のみ。  森へ広がる心配はない。  煉夜(れんや)は薙刀に己の霊力を()め、浄化のために(ふる)う。  斬って、()いで。  霊力の乗った斬撃派を飛ばし——。  そうして、群れる(あやかし)を討伐して行った。
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