巫≪かんなぎ≫と幼き妖狐≪ようこ≫

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 金色(こんじき)を拾ったのも、こうした有象無象を(めっ)している時だ。  (あやかし)一括(ひとくく)りに言っても、その種類は多岐に渡る。  金色(こんじき)のような人型も珍しくはない。  (おに)天狗(てんぐ)(きつね)はその代表格だ。  知性を兼ね備えているため人間のような集団社会を形成し、対話が可能な個体も多く存在する。  しかし、お(かみ)——煉夜(れんや)を使役する〝()〟は(あやかし)を毛嫌いしている。   「世の秩序を乱す、不浄なるもの。  見つけ次第、(ことごと)くを滅せよ」  とのお達しだ。  煉夜(れんや)もその命に従って、これまで数多(あまた)(あやかし)を無慈悲に(ほふ)って来た。  それが何故、金色(こんじき)を連れ帰り()でているのか。  ——きっかけはある。  金色(こんじき)は出会った時、手負いであった。  有象無象(うぞうむぞう)()まれた体は血に(まみ)れ、命の灯火(ともしび)は消えかけていた。  だが、人型と言えども(あやかし)。  掛ける情は不要だ。  金色(こんじき)を捕食しようと群がった(あやかし)諸共(もろとも)、浄化すべく薙刀を振りかざした。  その時。  金色(こんじき)神威(しんい)を授かった際に柘榴(ざくろ)色へ変色した煉夜(れんや)の瞳を恐れず見て、言った。 「助けて」  と。輝く黄金(こがね)色の瞳で。  あの色。  闇の中で光輝く黄金(こがね)色を目にした瞬間、言い知れぬ懐かしさと、ある情景が脳裏に浮かんだ。  一面を(おお)いつくす、暖かくて柔らかな金色(きんいろ)に包まれて眠る、優しい夢——。  穏やかな表情を浮かべて、眠りにつく自分がそこにいた。    神に仕える(かんなぎ)として、()()()()姿()()()()()()り果てた煉夜(れんや)は、夢の情景の様な終焉(しゅうえん)に焦がれた。  だから、だろう。  気付けば金色(こんじき)を救い、連れ帰っていた。  無論、守橙(しゅちょう)にも(とが)められた。  (きつね)は人を()かす事もあるし、お(かみ)(あやかし)(かこ)っている事が露呈(ろてい)したら、それこそ大事になる。  それはわかっていたが、自分でも(ぎょ)しきれぬ衝動だった。  回復して目覚めた金色(こんじき)——身の上を話そうとせず、名がわからなかったので見た目の色から名付けた——は、窮地(きゅうち)を救った自分を、恩人と(した)った。  人の(わらべ)と変わらぬ無邪気さで、感情豊かに接して来る金色(こんじき)。  接している内に、煉夜(れんや)に変化が訪れた。  来る日も、来る日も、戦い、戦って。  殺し、コロシ、ころし——(あやかし)と呼ばれる不浄の物を浄化する(殺す)。  そのように血生臭(ちなまぐさ)闘争(とうそう)に明け暮れる日々で擦り減らし、希薄(きはく)になった感情が一つ、二つ……と、(よみがえ)って来たのだ。  喜び、怒り、哀しみ、楽しむ。  (なが)らく忘れていた人間らしい感情を思い出し、心が(おど)った。  苦痛しか感じていなかった生に希望を与え、煉夜(れんや)を癒す黄金色(こがねいろ)の光。  それが金色(こんじき)だ。 「——粗方(あらかた)、片付きましたかね」  思考する(あいだ)も体に染みついた動きで得物を振り回し、いつしか周囲に(あやかし)の影はなくなっていた。  一瞬にも思える時間だったが体感よりも大分、長い刻限戦っていたのだろう。  東の空が(わず)かに(しら)み始めている。   「帰るぞ、守燈(しゅちょう)」 「はいはいっと」  今宵の務めは果たした、と煉夜(れんや)緋袴(ひばかま)を履いた(あし)(きびす)を返した。
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