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予期せぬ客
◇◇◇◇◇
煉夜の居住は、都から離れた僻地。
霊山近くの川の畔にこぢんまりと存在する。
家に帰りつくと、入ってすぐの厨で敏速かつ快活に働く金色の姿があった。
「あ、煉夜さん、守橙さん、おかえりなさい! もうすぐ朝餉の準備が整いますからね」
帰宅に気付いた金色が、純真無垢な屈託のない笑顔を浮かべた。
笑顔の何と愛らしい事か。
煉夜は雷に撃たれたような衝撃を受けた。
(妖? いいや——)
「天の御使いがいるぞ、守橙。金色は天上の最も尊き神が遣わされた神使に違いない」
「主様……」
守橙が憐憫を帯びた瞳で射抜いて来る。
「何故そんな目で見る。
幼き金色が私を労うばかりか、私の為に率先して食事の準備をしてくれているのだ。
感動しかないだろう?」
「…………そうですね」
盛大な溜息を付かれた。
式神に人と同じような感性を求めるだけ無駄か、と結論付け諭すのは諦める。
そんな事よりも金色を抱きしめ、愛でたい衝動に駆られた。
だがしかし。
まずは身を清めねば金色を穢してしまう。
煉夜は撫でくりまわしたい気持ちをぐっと堪えて、水浴びと着替えに走った。
大急ぎで身支度を整えて戻ると、膳に乗った朝餉が座敷に準備されていた。
「煉夜さん、冷めないうちにどうぞ」
と促されて席へ着く。
一汁三菜。
米、味噌汁、焼き魚、漬物、煮物。
ほかほかと湯気が立ち上っている。
出来立ての温かい食事だ。
ごくり、と喉が鳴った。
「頂きます」
両手を合わせ、糧になる食物と調理してくれた金色に感謝する。
箸を取って椀を持ち、おかずを啄んだ。
食事も金色と出会ってから思い出した楽しみの一つ。
しっかりと噛み締めて頂く。
じんわりと口内に広がり、舌を賑わせる食材の味に頬が緩んだ。
「どうですか?」
「嗚呼……美味いな。特にこの魚が別格だ。守燈が採って来た物か?」
「あ、それは僕が捕まえたんです。そこの川で」
〝そこの川〟というのは、煉夜が身を清めるために利用している、神水で満たされた川だ。
煉夜は手を止め、傍に控えた守橙が「は!?」と大きな声を上げた。
「ぼ、坊、川に入れたのか?」
「え? はい。普通に入れますし、泳げますよ?」
「あ、いや、そういう事ではなく。あの川は……それにその魚は、神の——」
不思議そうに首を傾げる金色と、慌てふためく守橙。
二人の対照的な様子が可笑しくて、煉夜は吹き出した。
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