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「くくっ! そうかそうか。ならば尚更味わって食べねばなぁ」
「主様、呑気に笑って食べてる場合じゃ……!」
「咎める事は出来んよ。私もお前も『不用意に外に出るな』とだけ告げて、話すのを忘れていたし、何より金色は赦されている」
守燈が顔面を手で覆って、みっとも無い呻き声を上げた。
(まあ、無理もない)
川は水の土地神が住まう神域。
あそこに住む生物は微々たるものだが神格を帯びている。
故に侵してはならないとされており、禁を破った者には土地神の裁きが下った。
付け加えて言うなら、川を流れる神水は邪な存在には毒となる。
だが、それを金色が知るはずもない。
そして今、こうして平然としている姿を見るに、かの神は咎める意思がないようだ。
(金色が神の御使いというのは、図らずも遠からず、かもしれないな)
そのように思考巡らせていると、予期せぬ客が訪れる。
「おおーい。邪魔するぞー」
返事をする前に引き戸を擦る音がして、家屋の入口から男が二人、入って来た。
海の様に深い紺青色の長く毛先の尖った髪を束ね、纏う煌びやかな衣装を着崩した粗野な男と、男より明るい天色の短い髪の若い男だ。
若い男の方は、きっちりと狩衣を着こなしている。
「おぉ? お前さんが飯とは珍しい」
満面の笑みで無遠慮に部屋へ上がり込んだ粗野な男は、髪色よりも濃い藍色の瞳をこれでもかと見開いた。
男の行動に驚いた金色が、弾かれたように煉夜の背へ回る。
煉夜は溜息を吐き出してお椀を置くと、男——煉夜と同じく神に仕える将の一人である男を睨みつけた。
連れ立った供は初めて見る顔だが、きっとその道に足を踏み入れた者だろう。
「無作法が過ぎるのではないか? 蒼殿」
「何を今更。数十年来の付き合いだろう。
このところ音沙汰がないから、どうしているかと思えば……ふむ」
蒼と呼んだ男が、煉夜の背に縋って隠れる金色を覗き込んだ。
笑みが消え、すっと瞳が細められる。
「妖狐の童か」
「妖狐!?」
蒼に供だった若い男が声を上げて、懐から〝符〟を取り出した。
「祓わねば、今すぐに!!」
興奮した様子の若い男が訴えかけるような視線を蒼へ送る。
今にでも暴れ出しそうな雰囲気だ。
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