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「全く、主が主なら、従者も従者だな。守燈」
「はい」
守燈が瞬時に男の背後に回り、体を抑え込んで地へ押し付けた。
「私の平穏を乱しに来たのなら、即刻お帰り願おう。それとも、刃を交える事をお望みか?」
「いやいや、お前さんと事を構えるつもりはない。……恐ろしさは身に染みてるからな。
湊音、ちょっと外に出てろ」
「蒼の守!!」
煉夜は目配せで守燈に指示を送る。
と、察した守燈が湊音と呼ばれた若い男を抱えて、屋外へ出て行った。
「悪いな。あれで一応優秀な弟子なんだが、過去に色々あってなぁ。人一倍、妖を憎む気持ちが強いのさ」
「無駄話はいい。何をしに来た?」
良く知らぬ相手の身の上話を親身に聞く趣味はない。
さっさと本題に入れ、といつの間にか座り込んだ蒼を、じとりと見やった。
「鬼気の祭が執り行われる事になった。お前さんも『朱雀の一柱として参列せよ』との勅令だ」
鬼気の祭とは妖気を祓い除くための祈祷の儀式だ。
「……気が進まぬな」
「神々への不忠は相変わらずだなぁ。気を付けろよ、このところ宮中の雲行きが怪しい。あまり不遜に振る舞っていると、座を追われるぞ。
その妖狐も出来るだけ早く手放した方が良い」
蒼が眉を吊り上げ、真顔で説いてくる。
この座に縋りつく理由もないので、そうなれば願ったり叶ったりなのだが、この男が知る由もなし。
善意からの進言だ、受け止めるのが吉だろう。
「忠言は心に留めておく」
煉夜は告げて、話が済んだのならさっさと帰れとの意味を込めて、追い払う仕草をして見せた。
蒼が肩を竦めて立ち上がる。
「冷たいねぇ。茶の一つもないのか?」
「報せもなしに訪れて、どの口が語るのやら。
招いてもいない客を歓迎してやれる寛容さは、生憎と持ち合わせていなくてな。
とっとと去ね」
声色を下げて睨みを利かせると、蒼は「おー、怖い怖い」とわざとらしく体を震わせて「邪魔したな」と立ち去った。
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