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静まった室内で、煉夜は盛大な溜め息を吐き出す。
穏やかな時間を邪魔された苛立ちと、お上からの招集に気が重くなったのだ。
「あの、煉夜さん……」
背に隠れたままの金色に呼ばれて振り返る。
金色は憂いた表情で、耳を垂れさせていた。
予期せぬ来客と、向けられた敵意のせいだろう。
煉夜は金色を宥めようと、頭を撫でた。
「驚かせたな、すまない」
すると金色はふるふると首を横に振り、そうして何を思ったのか。
——煉夜に抱きついて来た。
こちらから抱きつく事はあっても、金色からというのは珍しい事だ。
「どうした? 恐ろしかったか?」
「違うんです、煉夜さんが……」
「私が?」
「とても、苦しそうに見えて。僕を抱きしめる時は、いつも楽しそうにしていたから、だから」
「金色……」
まさか自分を心配しての行動だとは思いもしなかった。
何と優しい子だろうか。
と、胸が熱くなる。
煉夜は金色を抱き締め返した。
確かな鼓動と、広がるぬくもり。
今感じている温かさに、偽りはない。
例え、謀られているのだとしても——それでもいい、と煉夜は思えた。
それから数日の後。
煉夜は都で執り行われる事となった鬼気の祭へ参列した。
なるべく目立ちたくはなかったが、神楽舞の任を与えられてしまい、仕方なく鈴を手に炎を纏わせ舞った。
厄を祓い、神に奉納する舞を。
その裏で、金色に危機が迫っているとも知らずに——。
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