振り回されるイケメン

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振り回されるイケメン

ヴーヴーとスマホの画面に通知が出る。 長年、世話になっているお手伝いさんから家に、拓海が来た連絡だった。 「す、すいません! 俺、帰ります!!」 「えっ?! 遼河君!! それなら、今、車だすよ!!」 「いや、電車で帰るんで大丈夫です!! お先に失礼します!」 前は、素顔をさらして歩いていても誰も気が付く事は無かったが、高校に入ったのと同時に母親の事務所と専属契約をしたお陰か、知名度も上がり声を掛けられる事も増えた。 ありがたい事に出待ちをしてくれるファンも居たりするが、今日はマスクにキャップを被りさっさと駅まで向かった。改札をぬけ、タイミング良くホームに着ていた電車に乗り込むと、スマホで拓海にメールを送った。 「・・・あれ、既読になんないな・・・。」 ネット投稿されている作品を、拓海は毎日確認しているお陰で、ほぼ即レスがデフォルトだった。 その拓海が、未読。 拓海のSNS投稿も確認すると、昼に学校でイイねしていた通知以降、新規投稿も無かった。 画面の時間は、21時になるところだった。 拓海の週末のルーティーンを知る幼馴染としては、少し違和感を感じた。 最近、長風呂気味の拓海は、風呂場にもスマホを持って入るし、拓海の実力より少し上の高校に入ってからは、週末に撮り貯めたアニメを深夜まで消化する。 ・・・寝てるのか? 駅に着くと、足早に家に向かう途中、普段見かけない様な人物がキョロキョロと周囲を伺いながら歩いているのが目に入った。 前に、SNSに上げた写真から、自宅近くを特定された事があってから遼河は写真は加工する様にしていた。男の側を通ると、「たっきゅん、たっきゅん・・・」「このミラーは・・・」ぶつぶつとスマホを弄っている姿に、少し離れた場所で遼河は警察に通報を居れたのだった。 この辺りは、土地開発が進み遼河の住んでいるタワーマンションを皮切りにドンドンと古い建物は壊され、高級住宅地へと変わっていた。隣に建っていた古びた3階建てのアパートも、最近取り壊しが決定されて、長年お隣さんと思っていた幼馴染は通り一本向こうのマンションに引越したばかりだった。 「あーあ、遼河んちとも離れたなぁ~。」 「っても、大通り挟んで直ぐだろ。何なら、部屋からそっちのマンション見えるけど?」 「え?マジ?! タワマンすげーな。」 「何それ、別に凄くないし。」 「いや、お前のスペックでタワマン住みのDKとかマジ勝ち組だから。これで、家事全般出来たら無敵だろ。」 「何それ・・・。お前、どんだけ夢見てんだよ。」 「いや、マジで。遼河なら敵無しだって!」 高校に入ってからの拓海の俺に対する評価は何故かいつも高い。 其の事に、いつもしたく無い期待をしてしまう。 タワマンだって、親のお陰だし。この顔も、親のお陰。 モデルをやり始めたのも、拓海が雑誌に載ったのをべた褒めしたからだった。 親の離婚で、幼稚園に転入してきた拓海は、初日からマイペースに園の隅っこで本を読んだり、何か絵を書いたりしている大人しい子だった。 帰りのバスで、鞄に着いていたヒーロー物のキーホルダーが一緒で思わず声を掛けたら、瞳をキラキラと輝かせて嬉しそうに笑った顔に胸がギュッとなったのだった。 母親同志も気が合ったのか、日中お手伝いさんが居る俺の家で拓海を預かる事が増えて行った。 その頃には、拓海に対する印象はだいぶ変わっていった。 大人しい子だと思ったのが、自分の興味のある事に熱中し周りが見えてないで、輪に入れなかっただけとか、思いついたら身体が動いているタイプで、後先考えないで行動しちゃうとか。 ノリでピアッサーを手渡された時は、なんとも言えない気持ちになったのだった。 「なー、遼河! これで、穴あけてくんね?」 「はぁ?!? な、なんで???」 「えー、せっかく高校生になるし、この主人公みたいに開けてみたくてさー。」 そう言って、拓海は読んでいた漫画の主人公を指さした。 「マジか。そんなノリで言い訳?」 「えー、普通こういうのってノリじゃねーの?」 「そう・・・かも? ってか、これ俺がやんの?」 「ん。遼河なら、上手く開けてくれそうじゃん?」 サラサラの黒髪を、耳に掛け色白の耳たぶを拓海が見せた。 耳からうなじに掛けて、緊張からかうっすらとピンク色に染まっていく様子に、何故か胸の鼓動が激しくなっていくのを感じ、ごまかす様に冷凍庫から保冷剤を持ってきて、さっさと拓海の耳に穴を開けたのだった。 「う・・んっ!」 「!!」 バチンと大きな音にまぎれて聞こえた拓海の声と、触れた耳たぶの感触に、その日、俺は初めて意識的に拓海で抜いてしまった。 初めてのキスは、幼稚園の頃。 拓海とアイスを食べていた時だった。 「遼河坊ちゃま、拓海坊ちゃん、どちらのアイスにしますか?」 「たくみ、先に選んでいいよ。」 「イイの? それじゃー、こっち!!みどりの!」 「じゃぁ・・・ボクはバニラにする。」 緑のアイスを、メロン味だと思って食べた拓海は、初めて食べた抹茶の味にびっくりし、隣でバニラアイスを食べていた遼河に交換してと詰め寄ったのだった。 「りょーが! こうかんして! これにがい!!やだ!」 「えぇ・・・。いやだよ。 ちゃんと、さいごまで、食べなよ。」 「やだ、やだ!!」 「ボクもやだって・・・パク。」 「!! こうかんしてってば・・・あ、そうか!!!」 何かをひらめいたのか、拓海は抹茶アイスを食べると、そのまま遼河の唇に吸いついた。 ちゅう 「!!!??!!」 「やっぱり、バニラ甘い!!」 「え・・・な・・・え??????」 「だって、りょーがが交換してくれないから。こうやって、りょーがのくちに着いたのと、こうごに食べれば苦くないだろ?」 「・・え??? え? そ、そう・・・なの?」 「そーだよ!りょーがの口、バニラあじした!」 「・・・たくみこうかんしていいよ。」 「えっ、いいの?」 「・・・うん。」 嬉しそうにバニラアイスを食べ始めた拓海を横目に、幼い遼河にも苦手な抹茶味だったがそれをきっかけに、好んで食べる様になっていたのをお手伝いさんは気が付いて冷凍庫に補充してくれる様になっていた。 そんな拓海の突拍子も無い行動は、小学校に入っても変わらなかった。 デザートの苺を食べていた時に、またいつもの様に人の食べている分を欲しがった拓海は、口にいれた苺に食らいついてきたのだった。 「えっ・・・・なっ・・・!????!」 「ん・・ん・・んっ!!!!」 拓海の舌で、口の中の苺は少し潰れ、引っ掛ける様に拓海の口の中へと舌で移動させていく。 口を動かしたら、拓海の舌を噛みそうで動けずにいると、反射的に遼河の舌が押し出そうと動いた。 お互いの舌で潰れた苺の果汁の甘さに、遼河の身体はぞわりと震えた。 遼河の唇から零れた果汁と唾液を、拓海はペロりと舐めとると満足したのか、遼河が気が付いた時にはテレビの方へと向かっていた。 呆然としてしまった遼河に、お手伝いさんはそっと冷たいおしぼりをくれたのだった。 その日の夜、遼河は初めて下着を汚したのだった。 「ど・・どうしよう・・・。」 それから遼河は、拓海よりも先に色々な体験をするようになった。 小学5年の頃にはすでに、身長も拓海より遥かに伸びクラス女子の人気を独り占めしていた。 学年中の女子が、遼河と一緒に下校するのを狙っていたが、遼河は拓海と一緒に登下校をするのをやめなかった。それも、中学で遼河は雑誌に写真が載った頃には、お互いバラバラに下校する事が増えたが、それでも二人の距離は変わる事が無かった。筈だった。 拓海が、BLにハマるまでは・・・。
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