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拓海くんは処女童貞
何気ない、男子高校生の会話だったと思う。
「俺、処女はなぁ・・・。」
「うわー、ヤリチンの発言!」
「え~、それなら私、立候補しちゃおうかなぁ~。」
「何々、お前処女じゃねーの?」
「ビッチはお断り。」
「なにそれ~! ビッチじゃないし~。」
「いや、ビッチだろ!!」
ぎゃははと、所謂、陽キャと言われる奴らの下らない下半身の話。クラスの女子がドン引きしないのは、彼らが一軍陽キャのイケメンだからだろう。
ってか、教室でなんつー話してんだか・・・。
ちらりと後をみる。
教室の後でたむろする輩達の中心に居るのは、冴えないオレ、川本拓海の幼馴染。枇々木遼河。デザイナーの父親にモデルの母親の良い処取りのフルスペックなイケメン。クラスの女子が「遼河君の股下にすっぽり挟まっちゃう!」とか言ってたくらい、足が長いらしい。
いや、その女子が小柄過ぎん?とか思ったりしたけど・・・。
まぁ、贔屓目に見ても遼河はイケメンだと思う。
言動と行動は、ヤリチンクソ野郎だけど。
幼稚園の頃から、泣かせた女は数知れず。中学2年で逆ナンしてきた女子大生のお姉さんに、筆おろしされてからは、男女問わず「処女」以外はOKする節操無し。人知れず千人斬りの遼河とか言われてたり、言われなかったり。
本人も「処女は重くなる。」とか言ってる辺り、実際もそんな感じ何だろうな。
ちなみに、遼河は入れる方で有って、入れられるのは絶対無理だそうだ。
一度、御姉様がそちらを散らそうと疑似ペニスを装着して迫ってきた時は、返り討ちにしたらしいが、
「油断した。」と言って青い顔をさせてオレにべったりと引っ付いては、暫く大人しくしてたっけ。
「拓海!部活行くだろ?」
「あ、ああ。」
鞄に教科書を仕舞っていると、後から肩を抱かれた。
スキンシップが多いのは、幼馴染だからかも知れないが、遼河と並ぶと自分が小さく感じてなんとも言えない気分になる。
・・・170有るんだけどなぁ。(嘘。実際は168cm)
少し見上げると、キリリとした目元にスッとした鼻筋。一度も染めた事の無い黒髪は、顔に合わせスッキリと整えられている。
見た目は、めっちゃ硬派なのにな。
「遼河さ~、教室であんま下衆な話してんなよ。」
「あ?何が?」
「処女がどーのとかさ。」
「・・・処女って、拓海のエッチ~。何、俺らの話、盗み聞きしてたん?何、興味ある?」
そう言ってぷにぷにと頬を突かれる。
「はぁ・・・、そりゃ男だから、興味はあるさ。けど、お前みたいに選り好みなんかしねぇって話。」
「いやいや、俺は選り好みしてねーよ?」
心外だなぁと言いながら、部室まで来るといつもより部員がいつもより少なかった。
遼河をくっつけたまま、部内の後輩に声を掛ける。後輩達も背後に遼河がくっついて様が今では気にすることも無かった。
「あれ? 今日は、こんだけ?」
「あ、先輩! そうなんです!なんかオンリーイベントが有るからって、突発本が~って言ってました。」
「ああ。なるほど。」
いつの間にか、向かいに座った遼河は鞄から今日の課題をだしていた。
その向かいで、オレは青い袋に入った単行本を取り出す。さっき声を掛けた後輩は、次の作品のネタ出しなのか、ノートに向かって唸ってたりする。
オレと遼河は、年に一回文化祭に合わせて、部誌を発行するだけの漫研に所属していた。
普段読専のオレは、一年間読んだ中でベスト3の漫画を紹介し、遼河は漫研メンバーのスケッチモデルを引き受けていた。それなのに、遼河が入部してから部誌の発行部数は大幅にアップし、文化際で、外部生には有料で販売するまでになった。
「・・・突発本って?」
「ん? そのまんまだよ。 うぉーって上がったモチベで、突発的に出す本。」
「・・・へぇ。」
聞いておきながら、よくわからない顔をし、課題を進めていく遼河は、誰が見ても解る程、オタクでは無いし、アニメも漫画もオレに付き合って観る位だった。そんな遼河は、中高と何故かオレと一緒に漫画研究部所謂漫研に入部していた。
陰キャの中に陽キャを入れるのは、庭に除草剤を巻くようなもんじゃないか?と、中学の時にそれとなく伝えたのだが、遼河は思いの外、オタクに優しい陽キャだった。
かといって、部内のメンバーを食い散らかす事も無かった。
・・・処女童貞ばっかだからか?
ちらりと漫画を読むふりをして、遼河の方を見れば、真剣な顔で出された課題を解いていた。
まぁ、見た目の割に勉強はしっかりやってんだよなぁ。
「なぁ、終ったら写させて。」
「・・・たまには自分でもやっとけよ。」
「えー、だってオレ忙しいんだもん。」
「はぁ・・・。あんま漫画ばっか読んでんなよ。貸してやるから、終ったら一緒に出しといて。」
「えっ…遼河、神じゃん。」
「おー、もっと崇めたまえ。 っと、俺仕事あるから、先帰るわ。」
「うぃ~。了解。課題サンキュ! 気を付けて、行って来いよ~。」
「ああ。サンキュ。行ってくる。」
オレの伸びた前髪を軽く撫でて遼河は、部室を後にした。
撫でられてずれた眼鏡を直しながら、前髪をピンでとめると視界が一気に開けた。
開けた視界の先に、後輩がこちらを胸やけした顔でみていた。
「・・・なんだよ。」
「いや、枇々木先輩って本当、川本先輩には甘いっすよね・・・。」
「まぁ、幼馴染だしな。」
「ってか、川本先輩。前髪切らないんですか?ピンで止めるくらいなら切ればいいのに。」
「あー、これなぁ・・・。切っても良いけど、遼河がうるせーしなぁ。」
「あぁ・・・。理解。もう、何も言いません。・・・僕も、薄い本出そうかなぁ。」
ぶつぶつと呟きながらネタ出しをし始めた後輩を横目に、遼河の課題を鞄にしまうとスマホの画面に通知が有った。確認すると、SNSで知り合ったからのDMが届いていた。
それは、オレが処女を捨てるために探した人からだった。
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