同級生

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同級生

   映画は退屈だった。レイにしたら愛してるとか愛してないとかの恋愛物なら、自分で疑似体験してるし演者にもなっている。気の毒に思ったが、さすがに映画がつまらなくても寝たりはしない。  私の視線に気づいて、なに?という風に首を傾げた。ホントの彼氏なら可愛いとか言って、肩に寄りかかっているところだが、それがサービスに含まれるのか聞くわけにもいかない。ここはグッと我慢。席に着く前に買ったコーラを一気に飲みほした。  映画館を出て二人で並んで歩く。 「面白くなかったね。前評判が良かったのに残念、  ごめんね、こんなのに付き合わせちゃって」 「どうせ、しおりは僕の顔しか見てなかった。  ホントはそっちの方が大事なんでしょ、映画なんてオマケ」 「ウゲっ、そんなこと言っていいの?最初から攻めるね、ビックリだよ」 「だってホントのことだもの。いくら疑似恋愛でも嘘はイヤでしょ」 「もっとチヤホヤされるのかと思った。甘い言葉で持ち上げてその気にさせる。トップになるんだから、そういうテク持ってるよね。私には使わないってこと?」  予想外の展開に意地悪な言い方になったが、レイは気にしている風もなく平静だった。 「ねぇ、僕のこと覚えてないの?」  いきなり顔を覗き込まれて心臓が止まるかと思ったが、もし過去に出会っていたら、この最強の顔面を忘れるわけがない。 「えっ......初めましてだよ。どっかで逢ったっけ?」 「中学の同級生で三上玲(ミカミレイ)、親の離婚で逢沢になったけど、覚えてないの」 「うっ嘘、嘘だよ。全然面影がないもの。顔イジったの?」 「まさか、そのまんまだよ。名前は思い出してくれたんだ。僕はすぐにわかったよ。木元(キモト)しおり、同姓同名かもって思ったけど、顔見てやっぱって」 「だめだわ、同級生はないわ。ダメだわ、ダメ……」  ダメをうわ言のように繰り返していた。あの目立たないモブの三上君の変貌に驚愕しつつ、それに大金をつぎ込んでいる自分に呆れてしまう。全身が火が付いたように熱くなりクラクラと眩暈がした。 「解散だよ、解散!」 「返金はないから、勿体ないよ」  言われてみれば、その通り。オンラインで選んだこれぞという至極のイケメンが目の前にいるのだから勿体ないよね。そう同調する心の囁きが聞こえてくる。しかも予約を確定するまで、どんだけ待ったと思ってるの。 「ほんとに三上君だよね、何があったの、変身し過ぎでしょ」 「友達に頼まれてカットモデルやって、銀髪にカラーリングしたら、やたら注目されるようになった。この仕事も友達の誘いで入って評判が良かったので辞めさせてもらえなかった。まっ、金も貯まるしいいかって」 「髪色一つでメインキャラにチェンジするって、やっぱ世の中見た目なんだね」  って、偉そうに言う立場じゃないのは承知してます。でも、あの三上君がいま目の前にいるレイ君と同一人物とは思えません。背が伸びたのもあるけど、男の子って何かをきっかけにガラリと変わるんですね。    同窓会でこの人誰?って思う人は大概、老けたとか太ったとか薄くなったとかのイメージダウンが多い。三上君は稀にみる例外だろう。いまここで同窓会があれば、事件が起こった如くザワつくだろうと想像がつく。
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