初デート

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初デート

 待ち合わせには約束の時間にきっちり行く。遅れると言い訳が面倒だし、先に行って恐縮されるのも嫌だ。相手が男なら尚更、がっついてると邪推されるのもゴメンである。色々と詮索されるのが厄介なので時間厳守が鉄則なのだ。しかも今は時間を買っている。  レンタル彼氏との初デートだ。  相手を選ぶ時の基準は、顔の好みが最優先である。類まれなる面食いなので、条件はそれしかないといっていい。フラれた反動で思いっきり自分にご褒美をあげたくなった。あれだけ尽くしても報われないなら、虚構でもいいから今度は愛され、尽くされたい。  ◇◇駅前の欅の木を待ち合わせ場所に指定した。見たい映画を上映している映画館の最寄り駅だし、会社の連中と飲みに行くので勝手がわかる。  黒のコートに赤系統のアーガイル柄のマフラーをしていると教えてもらっていた。オンラインの紹介ページで銀髪なのは知っていたので、木の下に佇んでいる彼をすぐに見つけることが出来た。    色のないモノクロの世界に、そこだけが光を散りばめたように輝いている。独特の色気を醸し出すオーラを纏っているので、近くにいる連中がチラチラと芸能人を見るような視線を投げかけている。  スマホを見ている横顔が二次元からの切り絵のようで、ちょっと怖気づいて固唾を吞む。断トツのナンバーワンだけあってリアル等身大はハンパない。いや、今更ここで見惚(ミト)れてどうする。    すると、向こうが私の目印<バックに花柄のハンカチを結ぶ>に気づいて軽く手をあげた。それに合わせて周りの連中の遠慮のない視線がこちらに集中する。関係ないヤツらの値踏みが始まった。彼に相応しい女なのかを査定する...なんだ大した彼女じゃないなと、自尊心を納得させる。いつものことだ。前の彼氏で嫌というほど経験済みだ。 「こんにちは、レイです。すごい、時間きっちりですね」  頭の中で秒針が12の数字のところでカチっと鳴った気がした。  2時間のタイマーが鳴るまで私は至福の時間を満喫するのだ。  あの顔だけの浮気野郎のことは忘れて、自分を取り戻すと決めていた。 「はい、性分なんです」  私が答えるか答えないかのタイミングで、スッと隣に寄り添ってくる。 「さぁ~しおり、楽しいデートの始まりだよ」  紙芝居でも始まるように、耳元で囁くと映画館に促すように歩き出す。  彼氏彼女感が出るように呼び方も『レイ』と『しおり』で決めていた。大まかなデートプランはチャットで予め打ち合わせ済みだ。  映画を見て、カフェでお茶をして時間があったら公園を散策する。    彼はランクが最上位なので料金は1時間8千円、2時間なので倍の1万6千円、plus出張費(交通費etc.)を含めて全てを前払いしている。そのほかにデート中の費用も自己負担である。もちろん合意があれば、1時間ごとに延長も可能だ。    今日は初めてなので、お決まりのデートコースで様子見というところだ。顔が良くても実際に会って話をしてみないと、デート代に見合う人物なのかはわからない。そういうわけで、本日はレイ君のお手並み拝見といきますか。
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