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 彼女はずっと、歌詞の表示された大きな吊り下げディスプレイを見つめながら、黒くて大きなマイクをまるで何かの祈祷に使う呪術の道具の様に顔を前に掲げて歌い続けていた。  郊外のカラオケチェーン店の、日曜日の平日の昼下がり。客はぼく達以外にママ友グループらしきひと組だけの筈だった。た。ドア越しに何かの曲のリズム音と嬌声が漏れ聞こえている。  彼女はずっと歌っている。長くまっすぐなシースルーバングの髪。艶のある蒼白いような透きとおった肌。薄く赤い唇。瞳は顔に比して大きくて丸い。自画撮りをそのまま三次元化したようなその顔、その瞳はぼくを見る事は無い。ずっと画面を見つめている。  彼女が歌っているのは別れの歌だった。ちょっと古い時代の、別れの歌。二人の出会いは決して悪い事ではなかった、と歌詞は綴られている。安い言葉を安いセンテンスで繋いだ、何故ヒットしたのかも分からない曲だった。その曲を彼女は指定して、歌い始めた。個室に入るなりすぐに。それは忘れていた儀式を執り行うような手筈で進められた。ぼく達はここに来てから、会話らしい会話さえしていなかった。
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