3人が本棚に入れています
本棚に追加
第2話 乳母がリバーズしたZO
こうしてオレは、ミケルセン王国の第九王子「ジュライ」として転生した。
「はい、ジュライ坊ちゃま~。お乳の時間ですよ~」
乳母のニューデッカさんに、抱きかかえられる。
ニューデッカさんは、オレを片手でひょいと持ち上げた。
乳母といっても、30代くらいだ。まだ産める(コラ。
スレンダーな母と違って、こちらはふくよかな女性だ。
ドルン、と、惜しげもなく胸をオレにさらす。
相変わらず、迫力がすごいな。
「ジュライ王子ってかわいいんですけど、お乳をあげるときにちょっといやらしい目になるのが、苦手なんですよねえ」
ニューデッカさんが、ひとりごつ。
まあ中身が、恋愛経験どころか女性と接する機会がなかったおじさんだからね。
そこは、勘弁してくれい。
オレが乳首を吸うと、ニューデッカさんがブルッと震えた。小さく息を吸って、ため息をつくように吐き出す。
おっぱいを吸いながら、これまでわかったことを反芻する。
オレの上には、八人の兄貴と二人の姉がいるらしい。
みんな、小さなオレを慕ってくれている。
長男は後を継ぐのが決まっているし、既に孫もいた。孫はオレより、一つ上である。
次男は、別の国の王様だ。
長女は最近、南の国の王様の元へ嫁いでいった。
で、この乳母は「ニューデッカ」さんという。
王妃である母に仕える侍女で、主にオレの母乳担当だ。
母も一応、乳は出た。だが、出たのは初乳だけ。やはり高齢出産では、ムリがあったようだ。まだ産めそうなのに(コラ。
「チチェロ、あなたもどうぞ~」
彼女にも赤ん坊がいて、隣でオレと同じように乳を飲んでいる。
女の子のようだ。チチェロという名前らしいな。
毎度のことながら、ニューデッカさんは顔色が悪いな。いつにも増して、汗が滲んでいる。
城の仕事は、さして激務ではないはずだ。パワハラをするような国ではないし、ニューデッカさん自身の体調に問題があるんだろう。医学とか、あんまり発達していない国みたいだし。
王国ってのはたいていの場合、勢力争い・跡目争いなんかが主流になってくるはず。
だけど、ここはそんな世界とはまるで無縁。至って平和であり、気ままな上流階級暮らしだ。
諸外国との外交も、それなりである。
ただ、魔王が暗躍しているらしい。
こんな平和っぽく見える世界でも、魔王っているんだな。
有事に備えて、我が国は魔法学校なども設立している。
優秀な人材を国内外から集めまくって、育てまくっているそうだ。
魔王の領土からは、一番遠い国なのに。
で、勇者を募っているらしいが、なかなかそれっぽい相手は現れないんだとか。
まあ、そんなにポンポン生まれたら勇者じゃないよね。
オレが大人になってハーレムを結成したら、勇者なんて産ませ放題でしょ(コラ。
ニューデッカさん、オレの横、空いてますよ(ポンポン。
「ウッ!」
突然、ニューデッカさんが口を抑えた。
オレと自分の娘をベビーベッドに戻す。
「オロロオロロロロロロッロ!」
流しまで駆け寄り、思い切りリバースした。
「坊ちゃまの思考が、直接脳内に来ましたね。第二次性徴を迎えたばかりのジュライ坊ちゃまに、種付けされるイメージが飛んできました。想像妊娠でしょうかねぇ?」
ちょっと待て。オレの思考を読んだのか、ニューデッカさんは。
「子ども思考じゃないですね。まるで、中年男性のよう」
中年男性ですから。
「まあ、ごめんなさいね。気を取り直して、お乳を飲みましょうね」
ニューデッカさんは再度、母乳を飲ませる作業に戻る。
「あらあ、思いの外、すっご出ますねぇ」
彼女の言う通り、乳の出が凄まじい。
なんだか、彼女の命まで吸い上げているかのように、熱かった。
「あなたがわたしの身体から、悪い病を吸い出してくださったのでしょうかね?」
そういえば、ニューデッカさんは、チチェロを産んだ辺りで余命幾ばくもないとの噂を聞いたっけ。
たしか、他の侍女がそう話していた。
オレが、ニューデッカさんを回復させたのか?
どうやって? わけわからん。
母乳を与え終えて、ニューデッカさんが乳をしまう。
自分の娘をベビーベッドに寝かしつけ、オレの背中を叩く。ゲップを促すためだ。
「この坊ちゃま、将来大物になるかもしれませんねぇ」
オレの背中をポンポンと叩きながら、ニューデッカさんが独り言をいう。
「けぷ」
「はい、よくできました。王子」
ゲップを確認すると、ニューデッカさんは自分の娘に同じことをした。
「チチェロ、あなたは将来、ジュライ坊ちゃまの侍女になるんです。しっかり、王子を支えるのですよ」
チチェロが、ゲップをした。
ニューデッカさんは安心をして、チチェロをオレの隣に寝かせた。
「ジュライ王子のお眼鏡にかなったら、あなたは王子のお嫁さんになれるかもです。二号さんでしょうけど」
おお、まだ赤ん坊のオレに、将来を約束された許婚が。
……というわけじゃ、なさそうだな。
オレは王子。チチェロは侍女。
身分が違いすぎる。
でも、どういうわけか、オレは彼女と運命を感じずにはいられなかった。
チチェロは、子どもを作るだけの道具になってしまうのか。
いや!
絶対にオレは、チチェロを幸せにするぞ!
オレは、隣で横になっているチチェロの手を握りしめた。
チチェロも、オレの手を握り返してくる。
「え!?」
ニューデッカさんが、オレたちを見て涙を流す。
「まあ、坊ちゃま……ありがとうございます」
それはやがて、チチェロが伝説の勇者となったことで証明される――。
なんてね! そんなわけないか。ネット小説じゃあるまいし。
最初のコメントを投稿しよう!