第6話 幕間 王子様はすごすぎる

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第6話 幕間 王子様はすごすぎる

 チチェロは、クラスメイトのフゥヤと共にシャワーを浴びている。  柵から身を乗り出し、フゥヤがこちらのフロアを覗き込んできた。 「おお、やっぱり間近で見ると、すごいっスね。チチェロさん」  フゥヤに指摘されて、チチェロは胸を隠す。だが、腕からはみ出て隠しきれない。   「そうでしょうか? わたしはやはり、早熟すぎるのでしょうか」  母親の遺伝なのか、チチェロの胸は発達しすぎている。王子的な言い方をすれば、「ワガママ☆BODY❤」の部類に入るだろう。  王子に助けられてから、急激に胸が発達した。  今まで意識したことがなかったのに、王子の視線が急に恥ずかしくなってきたのである。  そのため、王子との混浴を避けるようになった。 「わかんないっス。こういうのは、授かりものっスから」  一方、フゥヤのスタイルはおとなしめだ。クラスで最も、線が細い。肌も、白すぎる。スケルトンより白いのではないだろうか。  他の女子生徒も、控えめである。  普通のサイズが、あんなものなのだろう。  伯爵令嬢イヤミンティアでさえ、チチェロには及ばない。背丈では、こちらの方が負けているが。 「それにしても、ジュライ王子っスよ。どえらい言霊持ちっスね。あなたの御主人様は」 魔法には、【言霊】というものが宿る。  いわゆる呪文というべきか。  この世界では、呪文によって言霊の形状を指定し、魔法を放つのである。 「ええ、あの方のおかげで、わたしは魔力のコントロールが容易になりました」 「ほおー」  チチェロは、学校入学前の話をする。  弱小モンスターであるはずのスライムが、世界樹の力を吸い上げてしまった。  おそらく、魔王の尖兵として送り込まれたのだろう。  ミケルセン王国の第五王子が、応援を呼びに行こうと撤退を推奨した。  しかし、王子は自分を助けてくれたのである。  言葉で、だが。 「わたしは幼い頃から、自分の中に眠る魔力の攻撃性に、悩まされていました」  自然とモノが壊れ、触れるものに変な力が宿ることもあった。  そのせいで、侍女として王家にどれだけ迷惑をかけたか。  だが、ダンジョンで王子とやり取りした後は、その現象が消え去ったのである。 「あとでわかったことなのですが、ジュライ王子の言葉は、それ自体が言霊の結晶なのだそうです」  魔法を発動しなくても、王子は言葉をそのまま魔力の塊として放出している。無自覚に。  無尽蔵の魔力がなければ、できない芸当だ。普段から、魔力を垂れ流しているようなものである。  王族の中でも、あそこまでの魔力を持つ人物は、現れなかったらしい。  だが、そんな剥き出しの魔力を浴びせられると、普通の人間は激しく嘔吐する。肉体が、形成前段階の言霊の流出に耐えられないのだ。自分に内在する魔力の流れを、強烈に乱されるから。  特にジュライ王子の魔力の原動力は、「欲望」。特に「情欲」、「性欲」だ。  いうなればセンシティブな妄想を、言霊によって包み隠さずぶつけられるようなもの。  言葉には出さなくても、「スカートをたくし上げて下着を見せろ」、「胸を触らせろ」などといった情欲が、直接脳に響くのだ。  しかしあのとき、そんな欲望丸出しな魔力を、チチェロは直接ぶつけられた。そのことで、チチェロの体内に眠る魔力回路が刺激され、魔力の制御が自力で可能になったのである。  絶体絶命の中、チチェロは自分の幼い身体には不釣り合いな凶悪すぎる魔力を、強化スライムに向けて吐き出した。  王子は意図していない。チチェロ自らの実力だと、未だに語っている。  自身より強い存在を倒した、いわゆる「ジャイアント・キリング」を行ったことで、さらに自分のレベルも上がった。 「ジュライ王子は、わたしにとっての恩人なのです」   「チチェロさんが王子を慕っていらっしゃる意味が、ようやくわかったっス」  シャワーを終えて、教室に戻る。  王子は窓際の席で風に当たりながら、読書をしていた。 「やはり、黙っていればイケメンっスよねえ」 「そうなんですよね。王子って、そういうところがあります」  フゥヤと共に、王子のアンニュイな姿にうっとりする。  他の女子生徒も、王子に見とれていた。   *  ムフゥ!  この世界のエッチな本も、なかなか見ごたえがあるなぁ。  写真などの直接的な描写がないだけに、文章で情欲を走らせてくるよ。  この脳を直接いじくりにかかる、繊細な言い回し!  古い小説なんかでも、やけに描写が細かったりするけど、やはり挿絵などの文化に乏しかったからなんだろうな。  映像がない分、妄想で補うしかなかったに違いない。  だからこそ、こういうひん曲がった表現につながっていくのだろう。  いやあ、エロは、奥が深いねえ!  ん、読書に集中しすぎて、女子たちの視線に気づかなかった。 「どうしたんだい? オレを不意打ちしようとでも思っていたのかな。ダメだぞ。勝負は正々堂々と、やらなくっちゃ。まあ、スキをついて後ろから抱きついたり、寝耳にささやきかけるなんて攻撃なら、いつでも受け付けるから、NE」  オレは、女子生徒たちにウインクをする。 「うっぽ!」 「ゲフウ!」 「おっええ!」  生徒たちが、一斉に廊下へ飛び出していく。おそらく、トイレに駆け込むのだろう。  ああ、またオレは、なにかやらかしたんだな。
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