第7話 詠唱の授業で、先生が吐いたZO❤

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第7話 詠唱の授業で、先生が吐いたZO❤

「今日は、ダンジョンで遠足でぇす」    担任のヒリング先生による引率で、ダンジョンのある山へ向かう。 「お弁当は、持っていますかぁ? 忘れた人はぁ、学校を出ないうちにぃ、購買で買ってきてくださぁい。サンドイッチが安いですよぉ。イヤン、『先生がおっぱいで挟んで』だなんてぇ!」  容赦ないヒリング先生のセクハラ下ネタに、生徒全員がドン引きする。 「ダンジョンへ向かう前に、詠唱のチェックでぇす。マジックポーションは大量に用意していますのでぇ、安心してムダ打ちしてくださいねえ。イヤン、ムダ打ちなんてぇ!」    ヒリング先生は「アハァン」と、教育者らしからぬ嬌声を上げた。   よく、教師の試験が通ったな。  この人の前世は、サキュバスかなにかでは?  気を取り直して、詠唱の授業となる。 「火の精霊よ、我が呼びかけに応え、眼前の敵を焼き尽くせ。【ファイアボール】!」  男子生徒が、手から火を放つ。 「はい。詠唱はバッチリなんですがぁ、威力が低いですねえ。魔力増強の鍛錬が、足りていませんねえ。実戦は、ウソをつきませんよぉ」  ヒリング先生はふざけているように見えて、生徒の動向をちゃんと見ている。  練習が足りていなければ、必ず指摘をした。  振る舞いはサキュバスながら、学校から信頼はされているらしい。  伯爵令嬢こと、縦ロールの番となる。  名前は、なんだっけ? 「燃え尽きなさいませ。【ファイアボール】!」  縦ロールが、手から炎の玉を発射した。  カカシ用の丸太が、半分吹き飛ぶ。  短い詠唱ながら、すごい威力だ。   「はい、イヤミンティアさん。よくできましたぁ」 「ありがとうございますわ」 「ですが、燃え方が雑ですねぇ。灰の状況が、不規則でぇす。言霊を、発揮しきれていませぇん。詠唱を簡略化させ過ぎですねぇ。ただし、パワーをセーブして発動するなら、それでいいですよぉ」 「普段から下僕の尻に火を付けているせいか、クセで」  どんな生活をしているんだろう、この悪役令嬢は。 「続いては、チチェロさん。どうぞ」 「はい」  チチェロが現れただけで、場の空気が変わる。  最初こそ「平民の詠唱なんて、見る価値などなかろう」と、雑談をしていた。  しかし、チチェロからただならぬ魔力が放出されると、周囲は黙り込む。 「……火の精霊よ、我が呼びかけに応え、眼前の敵を焼き尽くせ。【ファイアボール】」  静かに、チチェロが火球を放つ。  丸太が、一瞬で灰になる。 「どう、でしょう?」   「これは、やりすぎでぇす」  ヒリング先生が、頭を振った。  他の生徒も、青ざめている。 「ファイアボールとは、そういう魔法ではありませぇん。攻撃魔法の、基本形でぇす。これでは、必殺技の領域になっちゃいますねえ。うかつに放てば、街にまで被害が及ぶでしょ~」  たしか国民的特撮番組である光の巨人も、初代の光線は「基本形」らしいね。なのにそれを必殺技の領域まで昇華させたから、初代がいかに偉大なのかを証明しているという。  チチェロって、そういう素質があったのか。   「す、すいません」 「いえ。魔力練度は、最高クラスですのでぇ。確実に魔物を倒すなら、これくらいドカーン! とぶつけたほうがいいですよぉ」 「ありがとうございます。失礼します」  よくやったぞ、と、オレはガッツポーズでチチェロを励ます。  チチェロが、わずかながら反応した。    全員の魔法詠唱が終わり、オレの番となる。   「ジュライ王子、どうぞぉ」 「ムフフ。真打ちは最後に登場する。全部掻き出してあげるからNE」    女子全員が「ウップ」と、口を抑えた。 「おえ、で、では、王子、どうぞ」  先生に促され、オレはポーズを取る。   「精霊ちゃんおはー。すぐ来てこの丸太で一緒にキャンプファイアしよう。そして二人で、朝まで語り尽くすんだ。もちろん全裸で(コラ。受け止めて。【ファイアボール】❤」  オレは投げキッスの要領で、手から火球を放出した。  願ってもいないのに、火の玉はハート型になっている。  フヨフヨと、ハートの火は標的に向かっていく。   「おっげええええええええええええ!」    クラス全員が、キラキラをリバースした。 「うええええええええええ! オロロロロロロロ!」    先生まで、木陰に隠れて戻している。 「こ、ここまでとは。すごすぎですね。王子」  なんの魔法も発動していないのに、先生がマジックポーションをがぶ飲みした。  チチェロもフゥヤも、縦ロール令嬢も。  それでも全員、吐き気がおさまらないようだ。   「言霊が直接脳に響くとか、とんでもないですねぇ。制御不能のようですし」 「どうも、そうらしいですな!」 「でも、見てください」  先生が、カカシ丸太を指差す。 「丸太が……溶けてるぞ!」 「なんだあれ!」 「物理法則、どうなってるんだよ!」 「王子、チートすぎ!」    男子生徒たちが、驚愕している。  オレも、ここまでの結果になるとは思っていなかった。 「これって、判定はどうなるんでしょうかね、先生」 「合格、っちゃあ合格なんですが。ワタシも、初めて見たケースでしてぇ」 「おお、オレ、先生の初めて奪っちゃったんですNE」 「おげえええええええええええええ!」  また先生は嘔吐し、ポーションを飲み干す。  それ、胃薬かなにかなの? 「はあ、はあ。ジュライ王子。あなたの魔法なんですが」 「はい先生」 「実は、ファイアボールが着弾する前に、あの丸太は溶け出していたんですよねぇ……」  なんですと?
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