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第8話 同行していた姫騎士パイセンをお姫様抱っこしたら、リバースされた。NAZEDA?
「ジュライ王子、なんという才能なんだ……」
オレの奇行に、クッコ姫も唖然としていた。
「こんな魔法使いは、初めて見る。魔法が発動する前に、魔力で相手を攻撃するなんて」
「ま、まあ、遠足自体は先輩が同行してくださるでしょうから、不測の事態になればなんとかなるでしょう。ではみなさん、しゅっぱーつ」
近くの山まで、速歩きで向かう。
これも、ちゃんとしたトレーニングなのだ。
足に魔力を集中させて、速力を上げて目的地に向かうのである。
冒険者には必須の、スキルなのだ。
今でこそフルパワーで全力疾走だが、熟練者となると二分の力で倍のスピードを出せる。
眼の前にいる、姫騎士先輩のように。
「どうした? だらしないぞ。女の私に負けて、悔しくないのか?」
いや、他の先輩もヒイヒイいいながら走っていますので。
そこまでレベルが高いのは、あなただけです。
「では、とうちゃーく」
まったく息一つ切らさず、ヒリング先生がダンジョンの前に立つ。
生徒たちは、みんな息が上がっている。
先生が、生徒たちを整列させた。数人ずつで、パーティをクマせる。
「それでは、王子の班は、チチェロさんとフゥヤさんでお願いします。引率は、クッコ姫にお願いしますね」
「お安い御用です。このクッコ・ローゼンハイム。ミケルセンの王子には傷一つ付けませぬ」
大剣を掲げて、クッコ先輩が腰に手を当てた。
頼もしい。
山にできた亀裂が、ダンジョンの入口である。
「乗り込むぞ」
しんがりのクッコ姫が、オレたちを促す。
自然発生した瘴気が山に切れ目を作り、ダンジョンになるという。人工的に作られるダンジョンもあるが、こちらは人の手は入っていない。
一番後ろに陣取っているが、クッコ姫はダンジョンの全体を見回していた。オレたちがどう動いてもいいように、常に臨戦態勢を取っている。
「危なくなったり失敗したりでもいい。そうやって学ぶものだ。とはいえ、警戒は怠るな」
「は、はいっ」
クッコ姫から声をかけられて、チチェロは声が裏返った。
チチェロは、緊張しているようだ。
「ところでチチェロくんは、どうして魔法を習おうと思ったのだ?」
姫先輩が、チチェロに質問をする。
「えっと、自分の魔力を制御できるようになって、もっと王子のお役に立とうと」
「それにしては、本格的すぎるな。人を守るための魔法にしては、威力が若干高い気がした」
うわ。やっぱり先輩だ。ちゃんと見ているんだな。
オレが密かに覚えていた違和感を、先輩はひと目見て異常だと感じ取ったのか。
「……本当は、父を探す旅に出たいんですが」
「お父上は、どういう仕事を?」
「冒険者です。ミケルセンの王様から、腕を買われて」
そんな実力者だったのか。チチェロのおじさんってのは。
これは、ごあいさつに行かなければ。「どうも、未来の夫です」ってね❤
小鬼族が、行く手を遮る。
「来るぞ! ゴブリン共だ!」
油断すると身ぐるみ剥がされるので、「初心者キラー」としても知られているそうな。
まあ、こんな奴らにスキを見せる姫騎士様ではない。
指示すら出さず、すべてオレたちに任せる。信頼してくれているのか。
自分に迫ってくる相手にだけ対処をして、他にトラップなどがないかを確認している。オレたちだけでは、見落とす可能性があるからだろう。
「動くんじゃねえギャ! こいつらがどうなってもいいのギャ?」
クラスメイト全員が、拘束されている。
「バカな!? 引率の奴らはどうした!?」
指導員である先輩たちは、真っ先に闇討ちをかけられて昏倒していた。
「腕利きの戦士たちが、どうして……なっ!?」
ゴブリンたちを率いていたのは、猪の頭を持つ大男である。
「オークキングだと!? 上位種がなぜこんなダンジョンに!?」
「姫が来ると聞いて。出待ち」
オークキングは、やたらメタい発言をした。
「つまり、狙いはクッコ姫ただ一人だったわけか?」
オレが聞くと、オークキングは「そそ」と短く答える。
「姫たんさえくれたら、安全に帰す。でも抵抗するなら、全員始末するしかない」
「くっ! なんという!」
クッコ姫が、剣を地面に突き刺した。その場に、あぐらをかく。
リアル「くっころ」だ。
「よきかな。一歩でも動いたら、やっちゃうよ」
オークキングは、勝ち誇ったように言う。
姫の眼の前にしゃがみこんで、ハアハアしはじめた。
クッコ姫は、不快感をあらわにする。
「フン。こんなしょうもないトラップに、オレたちが屈すると思うか?」
オレは、ゴブリンやオークを挑発する。
「は?」
「お前ごときに、姫様はもったいない。もっと高貴な王族こそ、姫の相手にふさわしい。お前もキングなら、こんな姑息なマネなどせずにアタックできるはずだ」
言葉を発しただけで、オレはゴブリンの向けるナイフを溶かす。
「クッコ姫、こんなところであなたの純潔を散らすわけにはいかぬ。見ているがいい。身の程をわきまえる必要性を、このブタに思い知らせる」
「なんだと!?」
顔を真っ赤にして、オークキングがブチギレる。
「お前ごとき、オレの言霊の力なんぞ必要ない。力で解決がお望みなら、その通りにしてやろう。【ファイアボール】!」
オレは、クッコ姫の剣に向けて、ファイアボールを唱えた。
投げキッスによって繰り出された火球が、クッコ姫の剣に当たる。
ハート型の火球は剣に跳ね返り、オークの鼻の穴を直撃した。
「うげえええ! きめえええええ! ブッパ!」
オークキングの頭が、吹っ飛ぶ。
「さあみんな、目覚めのコーヒーの時間だ。朝のひとときを、オレと楽しもうではないか」
オレは、気絶している生徒全員に言霊を発した。
「おえええええええええええ!」
生徒たちが、寝●ロによって目を覚ます。
「ギャギャギャ! こんな覚醒方法があったなんて!」
強い個体を失ったゴブリンたちが、屈強の魔法科学生なんかに勝てるはずもなく。
ゴブリン殲滅と、生徒全員の逃走を確認して、オレは姫に手を差し伸べた。
「さて、クッコ姫、逃げましょう」
「足が、まだすくんで」
格下の魔物によってオモチャにされそうになったためか、恐怖で起き上がれないらしい。
「おまかせを。ひょいっと」
「うわっ、なにをする!?」
オレは、クッコ姫を文字通り「お姫様抱っこ」した。
背後には、大量のゴブリン共が。オレたちを追ってきている。
それにしても、すごい数だ。まだ、あんなにも潜んでいたのか。
「やめんか、ジュライ殿! 自分の足で立てるから!」
「やめるわけないでしょう。大切なパイセンを、傷物にはさせられないZE」
「うっぐ!」
クッコ姫が、口を両手で抑える。
これは、やばいか。
オレは、クッコ姫を後ろに向けさせた。
「ぼええええええ!」
胃の許容量をはるかに超える量のキラキラが、ゴブリンに降り注ぐ。
ゴブリンどころかダンジョンすべてが、虹色のキラキラによって水没していく。
「たしかに、オークキングの戦利品ですねえ」
帰宅後、ヒリング先生によってダンジョンは浄化された。ニオイもすっかり、消えてなくなっている。
「お恥ずかしい」
「いえ。クッコさんが恥じることは、なにひとつありませ~ん。ダンジョンにオークキングがいることを把握していなかった、学校側の責任です~」
ダンジョンを適当にチェックした職員は、処分されるらしい。
「それにしても、ジュライ王子の力は、凄まじかったですね」
「ですよねえ。あなたが吐き出したのは、体内の魔力ですから~」
「だから、あんな量の……アレを吐き出したのですね。自分でも不思議でした」
え、オレ、大活躍だったの?
ぶっちゃけ、まったく自覚がないんだけど?
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