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契約
しめ縄で囲まれた部屋の中央には大きな祭壇があり、ごうごうと音をたてて炎が燃え盛っていた。
四方を和装の男女が囲み、必死の形相で呪文を唱え続けていた。
十一月ともなれば寒い季節だが、燃える炎のせいで部屋の中は熱い。
その様子を少し離れたところから十数名の人間が見守っている。最前列には40代くらいの男性と10代の少女が並んでいた。2人は和装だが、他の人間に比べて華やかな衣装だ。特に少女は髪飾りも着物も純白で、まるで結婚式に参列している花嫁のような佇まいである。
列の一番後ろにいる灯は、誰にも気づかれぬようにひっそりとため息を吐いた。儀式がつまらないのは言うまでもないが、己の惨めさを嫌と言う程わからせてくるこの場から、早く去りたいという気持ちが灯の心を占めていた。
この仰々しい儀式を取り仕切っているのは灯の生家である菊峰家だ。灯の父が菊峰家の現党首として儀式の指揮を執っている。
そして、この儀式の主役は灯の妹である菊峰 花波。花波が一族の成人と認められる16歳になったので、今日は彼女の成人の儀式を行っているのだ。
成人の儀式とは、成人する人間が己に生涯仕える眷属との契約を結ぶ儀式である。菊峰家の家業に眷属の存在は重要で、この存在が仕事の成功率を左右するといっても過言ではない。
生涯の契約を結ぶという意味では、花波の花嫁衣裳のような純白の和装はあながち間違いではないのかもしれない。
2人は儀式の責任者と主役として最前列で堂々としていた。
それに比べて灯の惨めさと言ったら。灯は唇を噛む。
灯の年齢は18歳。16歳の時に成人の儀式を行った記憶はない。そして、長男だというのに、未だに灯は成人の儀式を行われていなかった。
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