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校門に、灯の知っている背の高い男がいた。
家にいた時に着ていた和服ではなく、セーターにスラックス、チェスターコートと世間一般的な男性の装いだ。
ただ、目立つ。
容姿問わず、どう見ても教師ではなく生徒の親にしては若い年齢の男が校門に立っていたら、それは目立つだろう。
下校しようと校門を通る生徒たちが不思議そうに誘宵を見ている。
灯は慌てて誘宵に駆け寄った。
「な、何でここにいるんだよ」
「雛彩芽がもうすぐ学校が終わるって教えてくれた。お前の居場所はすぐにわかるし」
他の生徒に聞かれないように小声で会話をするが、それがまた怪しく見えるのか周囲の視線が痛い。
早く学校を離れようと誘宵の腕を引っ張ると、どこか興奮気味の声が聞こえてきた。
「え、委員長のお兄さん!? イケメンじゃん!」
声のする方には目をキラキラと輝かせた鳴海がいた。
何か勘違いをしている様子の鳴海に、灯は慌てて説明しようとする。
「いや、違うんだ。こいつは」
こいつは、何だ?
灯の家業のことは誰にも話していない。話してはいけないと厳しく言われているからだ。家業のことを知らない人間に、誘宵のことを何と説明すればいいのだろうか。
「兄貴じゃねーよ。俺は灯の親戚のお兄さんってやつだ。君は灯のお友達ってやつか? いつも灯が世話になってるな」
返答に困っていると、誘宵がしれっと適当なことを言い出した。あまりにも自然に嘘をつくものだから、灯は感心してしまう。
「いえ! 俺のほうこそ委員長には仲良くしてもらってます!」
誘宵の言葉を鳴海は信じきっているようだ。突然現れたクラスメイトの親戚に興味津々の様子で、誘宵と話したくてたまらない、といった表情をしている。
このまま会話を続けて誘宵が変なことを言い出す前に、この場を離れた方がいいだろう。
「じゃ、じゃあ俺はこれで帰るね。鳴海くん、また明日」
「またな~!」
灯は誘宵の腕を引っ張り、学校を後にした。
いつもの下校コースならこのまま駅に向かうところだが、それでは他の生徒も多くいる。灯は人の少ない道を通って、遊具が何もない錆びれた公園に向かった。
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