妖退治

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しばらく歩いて公園に到着する。周りに生徒がいないことを確認すると、ようやく人心地がついた。 誘宵は手を引っ張られていても特に文句も言わず、黙って灯について来た。 灯は冷たいベンチに腰を下ろし、安堵の溜め息を吐く。 周りにマンションが建ってしまったことで日当たりが悪くなったこの公園は、寒いせいか冬は閑散としている。子供が遊べるような広さもないので、マンションのすぐそばという好立地なのに15時のこの時間でも人はいない。それが今の灯には都合が良かった。 誘宵と話をするにはちょうどいいだろう。 「お前、なんでイインチョーって呼ばれてんの」 委員長という単語を知らなかったようで、今まで黙っていた誘宵が面白そうに聞いてきた。 なんで、と言われても委員長だからとしか答えられない。そして委員長の意味を説明するのはなかなか大変そうだ。 「委員長だからだよ。それよりも何で学校来たんだよ。目立つじゃないか。霊体で来ることもできただろ」 妖のような人知の及ばぬ存在は「霊体」といって、普通の人間では見ることができない体を持っている。 灯のような妖と戦う力を持つ人間や、稀にいる霊感の強い人間は霊体を見ることができるが、それ以外の一般人には見えない。 だが、妖の中でも誘宵や雛彩芽のような眷属として選ばれるレベルの実力がある者は霊体ではなく「実体」、この世の存在と同じ体を持つことができるのだ。 誘宵は「委員長」の意味を問うことはせず、灯の問いにだけ答えた。 「せっかく外に出られたんだから、実体で動きたいじゃねーか。それよりも俺は雛彩芽からのおつかいで来たんだよ。お前に仕事だってさ」 菊峰家の仕事といえば、妖退治。 いつ妖に遭遇しても問題ないように日頃から準備しているとはいえ、学校帰りに仕事というのは珍しかった。
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