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家に帰って報告すると、父は烈火の如く怒りだした。
手にしていた湯呑は床に投げつけられ、中に入っていた茶が灯の服を濡らした。火傷するような熱さではなかったのが幸いか。
灯は何も言えない。
父を前にすると、うまく言葉が出てこないのだ。
服が濡れる不快感よりも父が灯に向ける視線の方が嫌だった。
「この役立たずが! あんな弱い妖1匹すらマトモに退治できないのか!」
「……申し訳ありません」
妖を取り逃すことは多々ある。
特に今回のような小物だと、知能は野生動物と変わらない。捕獲するために罠を仕掛けたり大人数で相手をしたりと野生動物の捕獲が大変なように、妖との戦いも長期戦になることは少なくないのだ。
今回も「取り逃したので明日にでも再度裏山に行ってきます」という軽い報告のつもりだった。
いつもなら「さっさと終わらせろ」程度の小言で済むのだが、今日はそれでは終わらなかった。
機嫌が悪ければ怒ることもあったが、それにしてもいつもの比ではない怒りようだ。
灯が誘宵を眷属にしてしまったことが関係しているのだろうか。
「お前の眷属が誘宵だなんて宝の持ち腐れもいいところだ。方法がわかれば今にでも契約を解消させるものを」
やはり、それか。予想はしていたが改めて口に出されると辟易してくる。
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