妖退治

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父が吐き捨てると、それまでおとなしくしていた誘宵が「我慢ならない」という態度で噛みついた。 「おい、オッサン。灯を責めるのはお門違いってやつだろ。俺が油断して逃がしちまったんだよ」 「誘宵、いいから」 灯は誘宵の服の袖を引っ張った。自分のために怒ってくれているのはありがたいが、誘宵が灯の味方をしていることが余計に父の神経を逆撫でしている気がする。誰が何と言ったところで父の考えは変わることはないだろう。むしろ周りが何かを言えば余計に意固地になって灯を責めるに違いない。 それに灯が悪いのは事実なのだ。誘宵が油断したと言っていたがそれは灯も同じ。鳥を退治しろ、と言われていた時点で上に逃げられることを想定していなかった自分が悪い。 灯は既に諦めていた。 どんなに誘宵が父に諭したところで、これ以上この状況が良くなることはない。 「何でだよ、お前は悪くないだろ」 「……いいんだ」 言い足り無さそうにしている誘宵だったが、灯の表情を見ておとなしくなった。 父は急に誘宵に食って掛かられて驚いた様子だったが、すぐにいつもの仏頂面に戻っていた。 「話は済んだ。さっさとこの部屋から出て行け」 「……はい、失礼します」 お互い無言で部屋まで歩いた。 本邸にある父の部屋から別邸の灯の部屋までは、建物が違うので一度屋敷を出ないといけない。 いつもは大したことのない距離だが、気分が落ち込んでいる今は足取りも重く、自分の部屋が遠いような気がした。
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