契約

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灯は父に疎まれている。 昔はそうでもなかったが、灯が小学生に入った頃からだんだんと冷たくなった。今では家族とすら思われていないかもしれない。 今日の儀式も参加するなと言われると思っていたのだが、何故か参加するように命令された。父も灯のことを少しは家族として認めてくれたのかと喜んだのだが、そうではなかった。 この儀式は菊峰家だけではなく他の家からも参加者が来る盛大なものだ。長男である灯が不参加だと、何かと詮索されて面倒らしい。それだけの話だった。 こんな末席にお情けのような形で参加させられるのなら、いっそ参加するなと言われたほうが良かった。何も知らぬ他家の人間が灯に向ける不思議そうな視線もつらかった。 灯の気持ちをよそに、儀式は進んでいく。中央の炎が一層強さを増した。男女の声がだんだんと切羽詰まってきて、いよいよ何かが起こりそうな雰囲気だ。 それを見つめている人間も固唾を呑む。異様な雰囲気に、儀式に興味のなかった灯でさえ落ち着かない気持ちになってくる。 「今だ!」 灯の父が声をあげると同時に、呪文を唱えていた1人が巻物を炎の中に投げ入れた。 巻物が焼かれた瞬間、ボンッ! という音と共に、あれだけ激しく燃えていた炎が消えた。 瞬きする暇もない。言葉を発する者は誰もおらず、皆唖然としている。消火したあとのような、ぷすぷすという音だけが聞こえ、部屋には煙い匂いが充満していた。 そして、ほんの数秒前まで炎が燃え盛っていた場所に人影が現れた。
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