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遅い時間の夕食を食べている灯を、頬杖をついて誘宵は眺めていた。こうして見つめられると気が休まらない。
誘宵は、黙っていれば色男なのだ。整った顔立ちが近くにあるのも、金色の不思議な色をした目に見られているのも、灯の気持ちを落ち着かなくさせる。
灯は誘宵と目が合わないよう、伏し目がちに食事を進めた。
「よし、飯食ったらでかけるぞ」
「……え?」
突拍子のない誘宵の提案に、ご飯を口に運ぼうとしていた灯の手が止まる。突然何を言い出すのだ。
「さっきの鳥、倒しに行くぞ。あいつをどうにかしねぇと、お前の父親がうるさいだろ」
「それはそうだけど」
早く妖を退治した方が良いのは当然で、長引けば長引くほど父の癇癪も起こるだろうが、根本的な原因はそこではない。
父は妖を逃したことに腹を立てているのではなく、灯が気に食わないだけなのだ。
「今日は月が出てる。本調子でなくても、さっきよりは力が出せるはずだ」
妖の中には月の有無で能力に差が出る者がいると聞く。また、満月と新月で能力が違う妖もいるらしい。誘宵と月の関係はわからないが、月が出ていない夕方よりも月が出ている夜の方が本人的には都合が良いのだろう。
「さっきの奴、裏山にいるのかな。警戒して現れないかも」
「場所はわかる。あいつの匂いは覚えた」
匂いで場所を特定できるなんて、まるで警察犬だ。
「なんか犬みたい」
「何だよ、知らなかったのか。俺は主に絶対服従の忠犬ってやつだ」
「えぇ……それはないでしょ……」
忠犬というと飼い主の後をついて来る可愛らしい犬を想像するが、どう考えても誘宵のイメージとはかけ離れている。
「ほら、喋ってないでとっとと食え。飯が冷めるぞ」
灯の冷めた反応に気恥ずかしくなったのか、誘宵は話題を変えた。
いつもはよく噛んでゆっくり食べる灯だったが、今日ばかりは誘宵に急かされていつもの半分くらいの時間で食べ終えた。
皿を洗おうと思ったが、「そんなの後でいいだろ」と誘宵が言うので、流し台に置くだけにしておいた。
(俺が戻ってくるまでに、誰にも見つかりませんように。自分で使った分は、自分で洗います)
お手伝いさんが見つけたら、きっと皿や鍋を洗ってしまうだろう。それは申し訳ないので、食べ終えた皿たちが見つからないように灯は祈った。
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