妖退治

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「灯は相手の動きを封じる術は使えるか?」 もうすぐ裏山に着くという辺りで、誘宵が聞いてきた。妖と対峙する際に使用する札は様々な効果がある。灯は何が起きてもいいように、いつも何種類もの札を持ち歩いていた。 「相手が動かないようにする札はある。でも、この術は札が対象の体の一部に触れないと効果が出ない」 今まで灯が戦ってきた妖は、出会った瞬間にこちらに向かって来るような好戦的なものが多かった。札を持って迎え撃つというのが灯の基本的な戦法だ。先ほどのような縦横無尽に飛び回る妖の時は罠を張ることが多かったが、今回はその時間がなかった。今から罠を張ったところで、あの妖が引っ掛かるのはいつになるのか。 札を張る前に上に逃げられてしまっては元も子もない。 まずは空に上がらないよう結界を張ることが最優先か。 「俺があいつに札を貼る。それでいけるか?」 「いけるけど……だったら誘宵が倒しちゃった方が早いんじゃ」 誘宵が妖に札を貼って灯が呪文を唱えれば、相手の動きを止めることはできる。 だが、札を貼れるほど近寄ることができるのなら、そのまま誘宵が蹴るなり殴るなり、何かしらの攻撃を与えてしまえば退治できるのではないか。 「いいんだよ、動きを止めるだけで」 灯には誘宵の考えてることがわからないが、何か理由があるのだろう。 着物の裾から札を取り出し霊力を込めた。 霊力は人外のものと戦う際に必要な力だ。 普通の人間は持っていない。例えば、霊感がある人間は「普通は見えないものを見る」ということに霊力を使っている。霊力を妖と戦うことに使うのが、灯の一族のような退魔師たちである。 霊力に関しては、よくわからないことが多い。 修行である程度は強くなるようだが、実際のところは生まれ持っての才能によるところが多いと言われている。 花波は霊力が強いと父からのお墨付きをもらっていた。反対に、灯は霊力については何も言われていない。最低限の霊力はあるが際立ったものがないのだと解釈している。 また、霊力は無尽蔵ではない。 体力と同じで、使えば使うだけ体が消耗してしまうようだ。それほど動いていないのに、札を扱った後で体が鉛のように重たくなったのは一度や二度ではない。
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