妖退治

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今作っている札はそれほど霊力を消耗しない。10枚ほどは余裕で作れるだろう。手始めに1枚だけ作り、誘宵に渡した。 「はい、これを使って」 「よし、あの鳥は近くにいるぜ。あいつは夜行性みたいだ。昼に会った時よりも活発に動いてるのがわかる。そんな時に出会っちまったらか弱い人間なんて襲われちまうだろうな」 昼はさっさと逃げてしまった妖だが、もしかしたら相手も本調子ではなかったのかもしれない。 戦力差を感じて分が悪いと逃げたのか。 夜になって活動的になっている今なら、逃げられることもなく戦える可能性が高い。 裏山は昼と同じく人の気配も何もない。夜になってさらに不気味さが増している。 音を発するものが何もない空間で、突然、風もないのに木々が揺れる音がした。 暗闇でよく見えないが何かが迫ってきている。きっと昼に出会ったあの妖だ。 「来たぜ、灯はそこにいな。札を貼ったら合図する」 「わかった」 灯が頷くと同時に、誘宵は気配のする方へ向かった。 さすが人外の者だけあって、誘宵の運動能力は人間離れしていた。昼に見た時も思ったが、助走もないジャンプで軽々とビルの3階くらいの高さまで上がっている。 誘宵がひときわ大きな木のてっぺんまで跳躍したところで、黒い鳥が姿を現した。今度は逃げることもなく、真っすぐに誘宵をめがけて飛んできている。妖と誘宵の影が重なった。 「灯!」 こちらからはよく見えないが、どうやら札を貼ることに成功したらしい誘宵の掛け声を合図に、灯は動きを封じる呪文を唱えた。 灯には自分の作った札の状態がわかる。まだ妖はもぞもぞと動いているが、羽ばたいて逃げることはできないようだ。呪文を唱えている間も、札が妖の体を捕らえた感覚はあった。 灯の予想通り、動きを封じられた鳥の妖は宙に滞在することができずに地面へと落下してきた。巨体が落ちてきたことで、辺りには砂ぼこりが舞い、ズシンという重たい音が響く。 木の上にいた誘宵が灯のそばに戻ってきた。 「灯、トドメを刺せ」 地面の上でもがいている妖を誘宵は見下ろしている。その表情からは何の感情も読み取れない。
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