妖退治

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「え? この妖は鳥でしょ。鳥の姿に戻すんじゃないの」 妖には生まれながらの妖と、動物や物、人間が妖になったものと2種類ある。 先天的な妖なら殺すか封印するかしかないが、後天的な妖なら元の姿に戻すという手もある。 実際、灯は今まで仕事で出会った妖のほとんどを殺してはいない。いくら妖とはいえ、命を奪うことはためらわれたのだ。 「あー……だからお前……」 誘宵は何かに気付いたような声をあげた。 どうやら灯に関することのようだが、何のことだか灯には予想がつかない。 「お前、優しいのはいいけどよ。殺さねぇと、お前の霊力は上がらないぞ」 「え?」 言いにくそうに目線を逸らしながら誘宵が発した言葉は、灯にとって衝撃的だった。 霊力が上がらないとは、どういうことだろうか。 混乱して頭の整理ができない灯をそのままに、誘宵は鳥の妖に向き直った。 「まぁ、コイツ程度なら別にいいか。確かに、元は普通の鳥だな。黒いからカラスか。ほら、元の姿に戻してやるから、もう人間を襲うなよ。灯じゃない退魔師だったら消されちまうぞ」 誘宵が妖に手をかざすと、誘宵の手の平に淡い光が見えた。その光が妖を包む。 あっという間に妖の体は縮み、よく見かけるカラスの姿になった。 「やっぱりカラスだったか。ほら、札取ってやるから」 そう言って優しく札をはがす誘宵の目には、先程まで「トドメを刺せ」と言っていたとは思えない、慈しみのようなものがあった。 灯は黙ってその光景を見つめる。 「もう動けるだろ」 札が取られても微動だにしないカラスを誘宵が地面から持ち上げた。体が自由になったことに気付いたカラスは、キョロキョロと辺りを見回した後に羽ばたいて行った。 夜の闇の中、その場には灯と誘宵だけが残っている。 「これでお前の親父もとやかく言ってこないだろ。帰ろうぜ」
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