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誘宵は全て解決した、という晴れやかな表情をしているが、灯の心は靄がかったままだ。
先程の誘宵の言葉が気になって仕方がない。声を絞り出すように灯は尋ねた。
「霊力が上がらないって、どういうこと」
妖を殺さないと霊力が上がらないなんて、灯は聞いたことがない。
今までの灯の修業は無意味だったのか? という嫌な考えが頭をよぎった。
「そのまんまだよ。飯食ったら栄養になるだろ。それと同じだ。お前、退魔師やってて知らなかったのかよ」
「知らなかった。霊力に関しては、生まれつきの才能が大きいって聞いた」
灯は退魔師としての才能を褒められたことがない。
才能がないとか向いてないと言われたこともないが、優秀と言われた記憶もない。おそらく、退魔師の能力としては平凡そのものなのだろう。
そんな灯とは反対に、花波は非凡な才能の持ち主だった。周囲の大人たちは「将来が楽しみだ」と絶賛した。大した修行もせずに褒め称えられている花波が羨ましかったが、生まれ持っての才能の違いだと半ば諦めていた。
せめて足手まといにはなるまいと修行に励んでいたが、それは間違っていたのだろうか。
「生まれつきで決まるのは、霊力の最大値だな。霊力は体力みたいな側面と、筋力の面がある。筋力的なところも才能が大きいが、まぁ修行すればある程度は強くできる。体力的なところは、生まれ持ってのものが大きい。そこからどうやって最大値まで霊力を増やしていくか、って話だよ。生まれつき体が丈夫な奴は何しても風邪ひかないだろ。体が弱い奴はすぐに風邪ひいたり寝込んだりするけど、鍛えれば筋肉くらいはつく。そういうもんだ」
誘宵の言っていることは理解ができる。「そういうものなのか」と腑に落ちる部分はある。だが、頭ではわかっていても心が納得できていない。霊力に関して、今までの価値観が揺らぎそうなのだ。
「そうなんだ、よくわかった」と素直に聞ける精神状態ではない。
「俺もうまく説明できねーわ。雛彩芽にでも聞いたらどうだ? 俺より上手に話してくれるだろ」
考え込んでいる灯への説明を誘宵は放棄したようだ。「一仕事終えた」といった表情の誘宵は灯の肩を叩く。
「ほら、帰るぞ。風呂でも入って、さっぱりしろ」
「……うん」
妖を退治し、仕事は終わった。普段なら安堵のため息を吐いて帰路につくところだが、今の灯はそんな気分ではない。
先程の誘宵の言葉を頭の中で反芻しながら、ほぼ夢遊病者のような足取りで家へと帰った。
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