契約

3/5
前へ
/51ページ
次へ
「おぉ……」 「あれが……」 その姿を見た周囲の人間が感嘆の声をあげる。 中央に立っていたのは1人の人間だった。 灯のいる場所からでもわかる、整った顔立ちをした和装姿の男だ。 (これが花波の眷属となる妖か) 菊峰家は、人間に危害を加えようとする、この世ならざる存在と戦うことが家業だ。 退魔師、除霊師、祓い屋など、様々な言葉で呼ばれている。 科学が発展した今、そんな存在は作り話に過ぎないと言う人間は多いだろう。だが、妖と呼ばれるこの世ならざるものは実在しており、それを退治する人間もいるのだ。 この世のものではない妖たちを相手に人間1人で戦うのは大変なことだ。だから、菊峰家の人間は代々眷属と契約し、共に戦ってきた。 眷属となるのは過去に先祖が退治した妖がほとんどである。自分自身が退治した妖を調教して眷属にする場合もあるが、最近は稀なことのようだ。 眷属を従えるのは菊峰家では一人前の証。そして、その眷属が強ければ強いほど、退魔師としての格も上がるのだ。 主である退魔師が死ねば、眷属はまた封印されるだけ。そして次の主が現れるまで待つ。 今日の儀式で現れた男は数百年前に先祖が退治した妖と言われている。あまりにも強い妖で、過去に何人かが己の眷属にしようと封印を解いたが、契約は成立しなかったらしい。 確かに、男の纏う空気は強者のそれだった。 肩辺りまで無造作に伸ばされた黒髪が合戦中の武士のようだからだろうか。 花波は一見すると愛らしい十代の少女だが、退魔師としての才能は一族の中で並ぶものがいないと持て囃されている。 才能ある退魔師と強力な妖。きっと、娘のために父がふさわしい妖を先祖代々の巻物の中から探したのだろう。 そのことを考えると、成人の儀式すら行われていない灯は羨望なのか嫉妬なのかわからない、嫌な気持ちが胸の中でぐるぐると回る。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加