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「ですが、これは退魔師の中でも一部の方しか知りません。この話が広まってしまえば、己の力を強めるために見境なしに妖や人を狩る者が出てきてしまいますから」
「……人間も?」
「そうです。霊力のある人間を殺しても霊力は高まります。殺せば、殺した相手の霊力を己のものにすることができるのです。一部の妖には血や精気を食事とするものがおりますが、それも似たようなものです」
雛彩芽の説明は誘宵の話を裏付けるものだった。
あの時、誘宵が「だからお前」と言った後に続く言葉は何だったのだろう。
「これは、諸刃の剣なのです。身の丈に合わない霊力を持つと、精神が崩壊する可能性もございます。霊力を高める方法は旦那様もご存じでしょうが、誰にもお話されていないはず」
何故か雛彩芽は罪を告白している時のような、苦しそうな表情で語る。
「誘宵様の仰るとおり、霊力には2つの要素がございます。灯様の今までの修業は、筋力を鍛えるものと同じだと思って頂ければ。決して無駄なことではございません。どうか誘宵様のお話を気になさらずに」
雛彩芽は「会話はこれで終わり」とばかりに席を立つ。
「でも俺、もっと強くなりたいんだ」
少しでも花波に追いつきたい。
生まれつきの才能を覆す方法が見つかったかもしれないのだ。
雛彩芽のひんやりとした手が灯の頬を撫でた。
「灯様は今のままでよいのです」
「雛彩芽、俺」
なおも言い募ろうとした灯を、雛彩芽の紫水晶の瞳が制した。
あまりにも悲しそうな表情に灯はそれ以上何も言えない。どうしてそんなにつらそうな顔をするのか聞きたかったが、それすらも口に出せない雰囲気だ。
「……おやすみなさいませ」
それだけ言って、雛彩芽は頭を下げて部屋から出て行ってしまった。
結局その夜は誘宵も灯の部屋には戻って来ず、数日ぶりに1人で就寝した。
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