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灯の仕事
昨日は変な時間に眠ってしまったせいか、気になることがあったせいか、なかなか寝付けなかった。
ようやく眠気が襲ってきた頃には朝方になっていたのかもしれない。頭が重たい。寝不足である。
誘宵が言っていた霊力を上げる方法も衝撃的だったが、雛彩芽の言っていた灯はそのままでいいという言葉も胸にひっかかっていた。
今のまま修行に励めばいいのか。何も聞かなかったことにすればいいのか。
雛彩芽の言いたかったことが掴めない。
気にはなっているものの、雛彩芽に聞いたところで何も話してくれないだろう。
誘宵も説明することを諦めていた。あてにならない。
頭も心もスッキリしていないが、これを解消する手助けをしてくれそうな人は灯の周りにはいない。己で答えを見つけるしかないのだ。
少しでも思考をクリアにしようと、灯は朝食前に本堂で瞑想をすることにした。家を出る時間まではまだ余裕がある。気持ちを切り替えて学校に行きたい。
本堂は誘宵と灯が出会った成人の儀が行われていた場所だ。別邸と本邸の間に配置されている。
鍵がかかっているとか立ち入り禁止になっているとか、そういった閉ざされた空間ではないのだが、神聖な場所と考えられているせいか普段は誰も立ち寄らない。
灯が本堂に入る直前、ちょうど学校に行く支度を終えたらしい花波が本邸から出てきた。
花波はここから少し遠い場所にある女子校に通っており、家から車で通学するために灯よりも早い時間に家を出るのだ。
いつもなら顔を合わせることはほとんどないが、同じ敷地内に住んでいればこういうこともある。仲が悪くとも家族であることに変わりはない。灯は平静を装って挨拶をした。
「おはよう」
「……灯」
嫌な奴に会った、と言わんばかりの花波の目。
これでも昔は兄と妹、仲良くしていた時期もあったのだ。今となっては兄とも呼ばれず、挨拶すらしてもらえない関係だ。ただ睨みつけるだけの花波に、挨拶を無視されて何も言えない灯。
二人の間に気まずい沈黙が流れた。
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