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別邸のリビングでは家政婦がいつものように朝食を作ってくれていた。部屋には味噌汁の良い香りが漂っている。
灯のご飯をよそいつつ、家政婦が誘宵に尋ねた。
「誘宵様の朝食はどうなさいますか」
「灯と同じの」
「かしこまりました。すぐに用意しますからね」
妖は食事をとらなくても良いのだが、誘宵は三食きっちり食べる。家政婦の面々も、誘宵を妖ではなく人間として扱っているフシがあった。
テーブルに座るやいなや、誘宵は顔を灯に近づけて疑問を呈した。
「お前、この家から出ようとは思わねぇの。変だろ、お前の父親も妹も。匂いが似てるから、血が繋がってないわけでもねーし」
誘宵の指摘はもっともだ。
灯自身も変だとは思っているが、何もできないままでいる。
今後も父との関係が修復されるとは思えない。
「家を出ようとは思ってるよ。高校卒業したら。退魔師の仕事ができるかわからないけど」
高校を卒業するまであと少し。
担任は大学に行くよう勧めてきたが、今さら受験勉強を始めても間に合わないだろうし、学費を払ってもらえるかもわからない。
数か月なら生活できる程度には貯金はしていた。卒業したら家を出て働くことは決めている。
バイトでもして、運良く退魔師の仕事がきたら依頼をこなす。そんな生活を考えているが、うまくいく自信があるわけではなかった。
遠方に住んでいる母方の祖父母の家を頼ろうかとも思ったが、母が生きていた頃からさほど交流があったわけではない。孫だからと言って突然押しかけるのも悪い気がする。不自由な生活にはなるかもしれないが、この家で息苦しい思いを続けていくよりはずっと明るいと思った。
「できるだろ、お前なら」
あれこれと考えている灯とは対照的に、誘宵はあっさりと灯のことを肯定した。
平然と答える様子にお世辞ではなく本心だとわかるが、何を根拠としているのかは全くわからない。
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