灯の試練

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「お待たせしました」 二人の目の前に朝食が運ばれてきた。 灯はいつもの量だが、誘宵のご飯は茶碗に山盛りになっていた。芸術とも言えそうな盛り方だ。確実に灯のご飯の3倍近くはある。 おかずもご飯の量に合わせたのか、鮭は2切れに増量され、ほうれん草の胡麻和えも小鉢ではなく普通の大きい皿に入っていた。漬物の白菜も塩分量が気になる程度には多い。 「誘宵様はよくお食べになるので大盛です」 そういえば昨日もおかわりしていたと言っていたし、誘宵はよく食べる方なのだろう。 目の前の大量の食事にも驚くことなく、普通に食事を始めようとしていた。 「お、うまそうな魚。この家は食事が豪華でいいな。ほら、灯にはこれを分けてやろう。この前初めて食べたけどシャリシャリしてうまかったぜ。子供はこういうの好きだろ」 そう言って自分の分のリンゴを1つ、灯の皿に置いた。誘宵が活動していた時代にはリンゴはなかったのだろうか。 「それリンゴって言うんだよ。……もう、子供扱いしないでよ。果物は好きだからありがたくもらうけど」 せっかくの好意を拒否するようなことはしない。いつもは黙々と食べるのみだったが、誘宵と一緒に食べるからか今日の食卓はにぎやかだ。いつもより食事に集中していないのに、味がよくわかる気がした。 作ってくれた人に感謝しつつ、よく噛んで食べていく。 食べ終えてお茶をすすっていると台所から声がかかった。 「灯様、お時間は大丈夫ですか?」 「うん、そろそろ行く。今日も美味しかった。ご馳走様でした」 自分の使った食器を運びお礼を言う。 「お粗末様でした。夕食は灯様の好きな肉豆腐にする予定ですよ。小鉢のリクエストはありますか」 灯から食器を受け取り、優しい笑顔の家政婦が尋ねた。 その表情を見ると灯も温かい気持ちになる。 「わぁ、楽しみ。何がいいかな。里芋とイカの煮たやつ食べたいけど、できるかな」 「ええ、もちろんですとも。たくさん作って待っていますね」 「ありがとう。それじゃあ、いってきます」 部屋を出ようとする灯に、誘宵も声をかけてきた。 「何かあったら呼ぶんだぞ」 「誘宵、スマホも持ってないのに呼べないでしょ。」 「石、渡してやっただろ。あれ使え」 「使い方わからないよ……子供じゃあるまいし、学校行くだけだから大丈夫だよ」 「あ、こら、灯、まだ行くな。使い方教えてねぇだろ」 「帰ったら聞くから」 時間に余裕があるとはいえ、この前のような長話になったらさすがに遅刻してしまう。 案外心配性な誘宵をよそに、灯は学校へと向かった。
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