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学校に着いてから、父に昨晩の妖退治の報告をしていなかったことに灯は気づいた。
帰宅後に報告すればいいだけだが、報告が遅れたと小言を言われることは避けられないだろう。まだホームルームが始まったばかりだというのに憂鬱な気持ちになった。
ぼんやりと黒板を眺めながら昨晩の話を思い出す。
霊力とは、修業とは。
朝の花波に対する誘宵の評価も気になっていた。妖と人間とでは感じ方が違うのか、花波への評価の低さは疑問だった。
他の家ではどうしているのだろう。
菊峰家と同じく妖と対峙することを生業としている家は、多くはないが存在する。
普段は別の職業に就き、退魔師の仕事は裏の家業と割り切っている家もある。
たとえば、菊峰の家が懇意にしている三条家。
この家は退魔師だと表立って公表していない。そして妖退治よりも除霊や呪いを解く方が得意分野で、退魔師としてはそこまで有名ではない。だが、この一族は霊力に秀でた人間が生まれやすいらしく、退魔師の家系の中でも一目置かれていた。
数年前に三条家の青年に会ったことがある。
灯よりも一回り近く年上で、どこか人形じみた怜悧な美貌の持ち主だった。話してみると意外と気さくで、人見知りの灯でも楽しく会話できたことを覚えている。
あの青年も修行に励んでいるのだろうか。もう20代後半だろうし、修行などは終えて退魔師の仕事をこなす日々を送っているのかもしれない。
もしかしたら退魔師の仕事などせずに一般的なの仕事をしている可能性もある。
妖を殺せば、それだけ霊力が身につく。
誘宵も、雛彩芽も、そう言っていた。
一部の人間は知っているらしいが、一部の人間とはどの範囲なのだろう。菊峰の一族が知らないだけで、他の家の人間は知っているのだろうか。
誰かに聞きたい。
退魔師として認められるようになりたいと、ずっと考えていた。
自分には花波のような才能はないし、眷属も与えられないだろうと思っていた。
それがここ数日で状況が変わった。
そんなことを考えているうちにホームルームは終わり、1限目の授業が始まった。
灯のクラスの日本史は非常勤の若い男性教師が担当している。
教師の猫のようなつり目は、どこか誘宵の金色の目を思い出させた。
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