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「暗い顔してるな」
自室に戻ると、誘宵があぐらをかいて酒を飲んでいた。
儀式からそれほど時間はたっていないはずなのだが、まるで何年も前からこの家に住んでいた人間のようにくつろいでいる。
菊峰家は立派な門構えに書院造りの豪邸だが、灯が住む別邸は現代風のよく見かける一軒家だった。
灯の部屋もフローリングにベッドといった一般的な高校生の部屋だ。
物が少ない灯の部屋は、小綺麗に整理整頓されているのも相まってどこか殺風景だ。
先ほど呼び出された父の部屋は本邸にあり、高級旅館の一室のような趣である。花波の部屋も別邸ではなく本邸の一室だ。
昔は本邸には祖父母が住んでおり、父も花波も灯と一緒に別邸に住んでいたが、気づけは別邸に住んでいるのは灯だけになっていた。
灯と誘宵の契約が結ばれた後、ぽかんとしている儀式の参列者に父は儀式の終了を伝え、その場は解散となった。
その後、灯は父に呼び付けられて小一時間くどくどと文句を言われ、最終的に座布団を投げつけられたのだ。
「父さんに叱られたよ。勝手なことするなって」
苦笑いする灯を、誘宵は何も言わずに見つめていた。
黄金の目に見つめられると落ち着かない気持ちになる。
「なあ、俺との契りなんて解消して、花波と契約してくれないか。誘宵だってその方がいいだろう。花波は時期当主だし、顔も良いし」
「お前もくどいな。その話、何度目だ。契約してからまだ2時間くらいしかたってないぞ」
「まだ3回しかしてない」
「くどい」と言われたことにムッとして灯が答えると、誘宵が呆れたような声を出した。
「3回も、だろ」
3回という数で言えば多いかもしれないが、灯にとっては大事なことなのだから仕方がない。
儀式が終わって自室に戻るまでに1回。この部屋でもう1回。そして父に呼び出されてこの部屋に戻ってきた今さっきの会話で3回目だが、灯は誘宵を説得できるまで言うつもりでいた。
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