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「お前、何で俺との契約がそんなに嫌なんだ。俺様だぞ? お前の先祖とか親戚にあたる奴が、何人も俺を眷属にしようと持ち掛けてきたんだぞ。それを全部断ってきた俺に選ばれたんだから、もっと喜べ。名誉ってやつじゃねぇか。父親が何だよ。もっと堂々としてろ。せっかく可愛い顔してんだから、そんな辛気臭い顔するな」 「可愛くない! 俺は違うんだよ」 灯の置かれた立場も知らずにのん気に答える誘宵が腹立たしく、つい声を荒げてしまう。 それと同時にドアをノックする音が聞こえてきた。 癇癪を起こした子供のような声を聞かれていたのだと思うと、気まずい。 「灯様、入ってもよろしいでしょうか」 ノック音の一呼吸後に女性の落ち着いた声が聞こえてきた。 よく知った声に安心したものの、先程の大声を聞かれていたことに変わりはない。動揺を隠し努めて穏やかに返事をする。 「はい、どうぞ」 灯が答えるとゆっくりとドアノブが回り、着物姿の女性が部屋に入って来た。 父の眷属である雛彩芽(ひなあやめ)だ。 一見すると二十代の美女だが、彼女が持つ紫水晶のような瞳は人間とは違う存在であるということを物語っていた。 雛彩芽も誘宵と同じ、成人の儀式の際に封印を解かれた妖である。 過去には父と一緒に戦うこともあっただろうが、今は父の秘書的な存在になっており、身の回りの世話をしていることが多い。 「失礼します。誘宵様のお召し物をお持ちしました」 雛彩芽は大きい風呂敷包みを手にしていた。服が包まれているのだろう。誘宵に動く気配がないので、代わりに灯が受け取った。手にずっしりとした重さがかかる。
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