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「お部屋の用意もできましたが、どうされますか。今すぐにでもご案内できますが」
来客応対のような雛彩芽の態度は着物姿も相まって、まるで旅館の女将のようだ。
質問された誘宵は全く興味がない様子で、手にした杯を眺めたまま答えた。
「その必要はない。俺はこの部屋にいる」
その返答に灯は慌てた。
「な、勝手に決めるな! 別の部屋に行け!」
「いいじゃねぇか。この部屋、広いし」
灯の大声に驚きもせず、めんどくさそうに誘宵は返す。
「お前がいると落ち着かない!」
茶番のような2人のやり取りに、黙って見ていた雛彩芽がくすくすと笑う。
「仲がよろしいんですね。出会って間もないのに」
仲が良いという評価に聞き捨てならぬと灯が食いついた。
「仲良くなんてないです! 今さっき会ったばかりの得体の知れない男ですよ」
「得体の知れないは失礼過ぎるだろ。お前の祖先が封印した由緒正しい妖様だぞ」
抗議する灯と呆れた様子の誘宵を、変わらぬ笑顔で雛彩芽が宥める。
「まぁまぁ。部屋は用意してありますので、もし移動されるのであればいつでも仰ってください」
「部屋より酒だな。つまみも欲しい」
「かしこまりました。後ほどお持ちしますね。食事は灯様と同じ時間に」
居酒屋の客のような態度の誘宵にも丁寧に接し、雛彩芽は出て行った。
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