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 紅茶は甘いペットボトルのタイプのものしか飲んだことがなかったけれど、せっかく淹れてもらったのでそのまま口をつける。温かくて、いい匂い。胃のあたりが温まると、少しだけ緊張がほぐれた。 「おいしい……」 「そりゃよかった。俺、紅茶好きで色々持ってきたから、好きな時に飲んで。淹れるの難しかったら教えるし、言って」 「ふふ、ありがとうございます」 「……俺、何か変なこと言った?」 「好きなものを語るレイさん、キラキラしてるなと思って」  それに、こんな饒舌な彼を初めて目の当たりにした。香月レイというアイドルはクールで淡々としているイメージが強かったので、意外だった。 「別に、普通だろ」 「だってレイさん、クールビューティーって呼ばれてるじゃないですか」 「それはファンが勝手に呼んでるだけだろ。顔は知らねぇけど、クールぶってるつもりはない」  不服そうにつぶやいたレイは、赤紫のマグカップに手を伸ばした。怒らせてしまっただろうか。顔色をうかがう。切れ長の双眸。薄い唇。雪のように白くキメ細かな肌に、ツンと尖った鼻先。本当に、綺麗な顔をしている。 「伊吹、見すぎ」 「すみません。横顔も綺麗だなって思って、つい見蕩れてしまいました」 「社長の指示か? カメラないところでも、BL営業の練習しろって?」  一気に温度を下げて刺々しくなった声に、伊吹は慌てて頭を振った。 「いえ、そんなつもりは……でも、親密さをアピールポイントにするなら、レイさんをよく知るところから始めなきゃとは思いました」 「営業って言ってんだ、別に上辺だけでもいいだろ」 「俺は貴方をよく知らないまま、仲がいいフリをしたくないんです」 「真面目かよ」 「よく言われます」 「知り過ぎると、見たくねぇもんまで見ることになるけど」 「それでもいいです」 「……変わってんな、お前」  レイはそう言って、ふいっと前を向いてしまった。これ以上、話をするつもりはない。華奢な身体にまとった張り詰めた空気が、そう主張していた。
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