日はのびた方がいい!

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 社会人は、四月の終わりと五月の頭の間の平日は有給休暇取得推奨日らしく、隣の家のおじさん等は仕事に行っていない。  しかし残念な事に俺ら高校生には、有給休暇なんて四文字熟語は存在せず、行きたくも無い学校に朝早くから向かい、部活までしっかりやらされるのだ。  もっとも、社会人から云わせると、高校生は長い夏休みがあるんだからちょっと長いゴールデンウイークなんて大したこと無いだろうと云われる。  その話を聞けば、まぁそれもそうか、と納得してしまう自分がいたりもするので、そんなに悔しくも無くなった。  確かに一週間ばかりの休みより、一ヶ月休める夏休みは捨てがたいものだしな。  そんな事を考えながら、俺は五月一日の授業及び部活を終えて帰路へとつくのだった。  俺は、下駄箱で革靴に履き替えると、昇降口の扉を開けて外へと出る。すると、テニスラケットを肩にトントンと叩く様に乗せながら歩いて来る女子生徒達とすれ違った。 「あれ? 閃貴(せんき)も今帰り?」  まだ、高校生活が始まってひと月しか経っていないのに、俺の事を名前で呼ぶ女子など容易に想像が付く。  そう、幼馴染の横山ヱルだ。 「あぁ、俺も部活終わったんでね。ヱルも終わりか?」 「うん。私も今から帰るから一緒に帰ろうよ。どうせ同じ所に帰るんだしさ」  こいつの発言は無意識なのか? それともワザとなのか? ヱルと一緒に歩いていた女子がヒソヒソと話し始めた。 「おぃ、ヱル。同じ所とか云うな! それだと同棲している見たいに聞こえるだろう。同じ方向とか云ってくれないと要らぬ誤解を生むだろうが」 「え~、だってお隣なんだもん。同じ所でいいじゃん」 「俺は、要らぬ誤解を生みたく無いだけなんだ」  俺がヱルの発言に抗議をすると、ヱルの顔が少し意地悪少女の様にニヤけた。 「へぇ~。でもさぁ~何回もお泊りした中なんだから、同棲って云っても過言じゃないわよね~」 「ばっ、ばか云ってんじゃねーよ。それって、小さい時の話だろう。そいう事云うなら、俺はもう帰る」 「わっ、分かったよう。もう云わないから、着替えて来るのちょっと待ってて」  そう話すヱルは、少しすまなそうな顔をして、小走りで更衣室へと向かって行った。  まったく、一緒に帰りたいなら、おちょくるんじゃねぇつーの。  俺は、あいつのせいで、何度恥を掻たことやら。  そんな風に、過去にヱルのせいで掻かされた恥の事を考えていたところ、ヱルが制服に着替えて昇降口まで戻って来た。 「お待たせ。さっ、帰ろう」 「軽いなぁ」 「なにが?」 「さっきの発言に対する謝罪は無いのかって事だ」 「あぁ、同棲発言? 大丈夫、大丈夫。さっき更衣室で友達にはちゃんと話しておいたから」 「……なんて?」 「同棲じゃなくて、同居だよって。ほら、親も居るじゃない?」  俺の顔が熱を帯びる。 「ばっ、バカか! それじゃぁ何も解決してないじゃ無いか! 大体お前と同居なんてしてないだろう!」 「あははは。嘘だよ、嘘。すぐに閃貴は本気にするんだから」  子猫みたいにじゃれながら、ヱルはピョンピョン跳ねながら校門へと向かった。 「閃貴~。ところでさぁ、最近日が長いよね~。結構のびたよね~」 「そうだな。まぁ、夏至も近づいて来てるしな」  俺はこんな何気ない会話をヱルとするのが好きだ。  考えずに話している分、家族みたいな感覚が得られるからなのだろう。  もの心が付いた時には、既にヱルが横にいたから、きっとそんな気持ちになれるのかもしれない。   「ところでさぁ、閃貴は日が長いのと短いのどっちが好き?」 「どっちって云われてもなぁ。どっちだろう? そう謂うお前はどっちだ?」 「私? そりゃぁ、日は短い方がいいでしょう」 「なんでだ?」 「だってさ、閃貴と帰る時に暗ければ、周りの目を気にせずくっつけるでしょ。それに寒いって抱き着く事もできるじゃない?」 「ばっ、お前、そんな事したこと無いだろう。いい加減な事云うな!」  ちくしょう。ヱルのヤツいつもの様に俺をからかって遊んでやがる。  まったく、冗談とはいえ顔が赤くなるから止めてもらいたい。 「で、閃貴はどっち? ラブラブ出来る日が短い方? それとも長い方?」  俺は、ヱルのペースに流されないよう、深く深呼吸をした。  そして、改めて、日が長い方が良いのか、短いのが良いのかを考えた。 「ん~。そうだな。日は長い方がいいんじゃないか?」 「なんで?」 「だって、日が長い方が、こうやって、学校が遅くなっても明るいだろう。そうすれば、お前が家に帰る時、チカンや犯罪に遭う確率が減るじゃん」 「ボソボソ………………どうして、素でそういう事云うかなぁ」  心なしか、ヱルの顔が赤らんで見える。  夕日のせいか? 「おぃ、ヱルどうした、急にボソボソ話して。何て云っているのか聞こえねーよ」 「なんでもない。それより、暗くなったら、ちゃんと私の事チカンから守ってよね!」  そう云いながら、ヱルは俺の腕に飛びついて来た。 「バカ云うな。明るい道で帰ってくれ。俺はお前と一緒に帰るのはゴメンだ。つーかまだ学校だ、離れろ!」 「えっ、学校出たらくっついていいの?」 「ちげぇよ。いいから離れろ!」  結局、今日も俺はヱルに振り回されるのか。トホホ。
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