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「涙」
土砂降りの中、家を飛び出した子供がいた。
シエロンという可愛らしい名の、少年と見間違えるほどの幼い子供だ。
少年というには低い130cm程の身長である。
近くを通った通行人にぶつかると少年は睨んだ。
人を殺したような目だった。しかし、ブラックホールに吸い込まれるように惹かれる瞳。
よく見ると彼女には痣があった。何かに殴られたようなそんな痣。
この街には噂がある。
雨の日に外に出るとフードを被った黒髪の少年が現れるという噂。マントの下にある全身に広がった大きな痣があるらしい。
彼女が立ち去った後に絆創膏が落ちていた。
男の手のひらに収まるくらいの大きな絆創膏。
気付いた時には少年は居なくなっていた。
※ ※ ※ ※ ※
あれから雨は降ってない。
あの少年はどこにいるのだろうか、男はふとした時に気になってしまっていた。
「あの、これ落としましたよ」
高い子供の声に男は振り向くと、ふっくらとした可愛らしい肌の少女がそこにいた。
「会いたかった」という言葉が、土砂降りのように溢れ出して涙に変わる。
目の前にいるのは名前も知らない女の子なのに、どうしても重ねてしまうらしい。
ーー古来。
呪いの雨が三日三晩ずっと降っていたことがある街。
魔物に土地を侵されて土地が痩せ細り、作物を育てることが出来ずに飢え死にする人々。
この物語は序章に過ぎなかった。
ある日を境に何日も眠りにつく者、 奇行に走る者、 突然目の前から姿を消す者。
ーー前世の記憶を持つ者。
世界七不思議を解き明かそうと集まった人がいた。後に「生きる伝説」と呼ばれる人間が誕生する場所。
その名はーー
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