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長く降り続いていた雨は止む。とぐろを巻いたような入道雲が青い空を独占する。湿った空気が洗濯物を乾かさない午前六時、シャッターが切られる。
ワッフル生地の白色のティーシャツ、くるぶしの見える灰色のサーカスパンツに運動靴。首から下げられるストラップ付きのカメラ。水溜まりの前に立つ。濡れたアスファルトに立膝をついて手を伸ばす。水面にうつるは指先。触れれば輪が広がり、波紋が生まれる。
覗かれないレンズと収まりきらない手腕に液晶モニターが一瞬、暗くなる。青。目尻は下がり、蛙が瞬きをする。やおらかに立ち上がり歩みを進めた。
澄んだ空気が鼻腔を通る。目は糸に、口角は上がる。道草を食べているのか、シャッターを切る手は止まらない。
紫陽花、猫、田んぼ、空っぽの用水路、雲、鳥居、バス停、文字の反転した看板。棒アイスを食べている黒髪の少女。シャッターを切っていた。味はきっと、サイダーの氷菓子はシャク、と齧じられる。
それからしばらく咀嚼をし、少女は遠方を指を差してから、歩き出す。階段をあがり住宅街へ。森の中に繋がる道は土から砂利へ。棒に記された文字が見えたとき、道路に変わった。案内をしてくれたいたことに気付いたのは、駄菓子屋と書かれた看板を液晶モニターで確認をしたときだった。ショーケースの中は霜が下りて、たくさんの氷菓子が並んでいた。ひとつを手に取り、お金をトレーに置く。その銀硬貨や銅硬貨もまた、字が反転している。
封を開けてひと口齧り、少女と歩き出した。溶けて滴る。踏み切りの前。少女は消えた。終
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