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   親と子は似るものだ。  実際、セフィラン自身も子供の頃から、よく父親であるカイルーズ似だと言われてきたし、成長し、青年期に突入した今、「カイルーズ王の若い頃そっくりだ」と言われるのが挨拶代わりになっていたりする。  ディエラのノア王子とマリア姫、それにサンジェイラのステラ姫。三人は三人共に三つ子の姉妹である母親似であるが故にその顔立ちがよく似通っているのだ。  だが、似ているといっても、それは限度がある。よく似た親子や兄弟姉妹(きょうだい)でも、どこか違うものだ。  それが、普通なのである。  しかし…………。 「改めて自己紹介させて頂きます、セフィラン王子。私はライサン・セリクスと申します。そしてこちらが、私の補佐役である、ルーク・ウインターです」  赤髪の大神官補佐と並んでソファに腰かけているのは、セイントクロス神殿に存在する三聖人の内の一人。  ライサン・セリクス大神官、その人である。 「…………」  あの後、とりあえず座ってゆっくり話をする事にした四人は、セフィランがライサンを連れ込んだその客室のソファに落ち着く事にしたのである。  テーブルを挟んだ二人の向かいのソファに腰を下ろしたセフィランは、顔色を悪くした無表情のまま、相手の穏やかな微笑みを見つめた。そしてすぐに、自分のすぐ右隣の席に同じように腰を下ろしたリュカに目線だけで視線を向ける。  リュカは何も言わず、目の前の二人に目を向けていた。 (レベルが違う)  まるで双子だ。  目の前にいる大神官と隣にいるリュカ。二人は、ディエラを治める麗しの双子の女王(本来は三つ子だが)、あの二人のように似ているのだ。  ーお二人共、父上より年上なのにすっごくお若いから、見たら驚くと思うよ。セリクス大神官なんて、セリクス神官と双子みたいにそっくりだしねー  何か月か前に兄から聞いた言葉が、真っ白になった脳裏を駆け巡る。  あれは、比喩表現ではなかったのか。ここまで似ているとは、予想していなかった。いや、普通、想像すら出来まい。  しかし、よくよく冷静になって見比べれば、若干の相違も存在している。  まず、その落ち着いた風情から、ライサンの方がリュカよりも少し年上のように感じられる。(実際、親子程離れているのだろうが)それに、ライサンは瞳の色がリュカよりも薄い、薄茶色をしており、身に纏う神官服も、リュカが着ている一般のものと違い、最高位を示すようにデザインや使われている色が違っていた。  そして、リュカとの相違の最たる部分。  ライサン・セリクス大神官の右の目尻から頬にかけて存在する蔦のような紅い痣。  それは、隣で疲れたような顔をしているルーク・ウインター大神官補佐の顔、その左側にもまるで揃いのように存在している。まるで二人の時別な関係性を表しているかのようだった。 「お目にかかれて光栄です、セリクス大神官、ウインター大神官補佐」  動揺を隠し、なんとかそう答えたセフィランは、自分の事を知っているようだが、ほぼ初対面に近い相手に向かい、とりあえず自己紹介を返す事にする。 「セフィラン・アシェイラです」 「ふふ、殿下が幼い頃にセイントクロス神殿本部の方で一度お目にかかった事があるのですが、覚えておいでですか?」  穏やかに微笑みながら柔らかな口調で尋ねてくる相手に、セフィランは動揺と緊張が少しずつほぐれてくるのを感じる。 「はい。叔父上達と神殿本部を訪れた折に会った事を覚えています」 「あの時は殿下とは少し挨拶をさせて頂いた程度でしたので、覚えていて頂けて、とても嬉しいですよ」  あの頃、リュセルとレオンハルトに手を引かれていた幼子が、若木のような立派な青年に成長した姿を目にし、ライサンは大きく安堵すると共に、感慨深い気持ちになった。  ルークも同じ気持ちなのだろう。何も言わず、じっとセフィランを見つめていた。翠緑の髪の王子の中に、かつて己の部下であった、同じ名を持つ青年の姿を見ているのかもしれない。 (まただ)  ライサンとルーク。二人から注がれる、まるで何かを懐かしむような視線を感じ、セフィランは居心地を悪くする。  それは、時たまリュセルが見せる表情と同じ類のもの。  自分の後ろに何かを見ている。  誰かの、面影を……。 「記憶はあるのですが、子供だった為かとても朧気で、そこで出会った者達の顔までは覚えていないのです。なので、セリクス大神官やウインター大神官補佐の顔まではよく覚えていなくて、会えるのをとても楽しみにしていました」  自分からすると意味のわからないそれを払拭したくて、セフィランは微笑みを返しながら、少し強めの口調でそう言った。
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