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「そうですか。殿下にそう言っていただけて、本当に光栄です。子供の頃の記憶など、あやふやなものです。見知らぬ大人の顔など覚えていなくて当然だと思いますよ。でも……、そうですね。それでは、私をリュカと間違えてしまっても無理はありませんね」
「……ッ」
「…………」
にこにこ笑いながら落とされた爆弾。セフィランは笑顔のまま息を呑み、リュカはひたすら無言のままを貫き通す。
「親子とはいえここまで似ているのは、まず、ありえないでしょうから」
「親子? では、やはり、セリクス大神官が、リュ……、セリクス神官の父親なのですか?」
癖でリュカと言いかけるのを何とか言い直したセフィランの言葉を聞き、その事を気づいているのかいないのか、ライサンは小さく頷いて答えた。
「正確には、父親の一人です。もう一人の父親がルークになります。リュカの事は、もうご存知ですか?」
その本性が、白色の竜(ホワイトドラゴン)である事。
「はい」
「ドラゴンは石の卵から孵化します。私は人間ですが、ルークがドラゴンの血を引く末裔でして、彼が私を番とし、卵を孵化させて産まれたのがリュカなのですよ」
元々、ドラゴンには雌が存在しない。人間のように母親というものがいないのだ。ドラゴンの雛にいるのは、父親のみ。一人であれば、一人。番であれば、二人の父親がいる事になる。
(そういう事か)
人間とはまた違うドラゴンの産まれに、セフィランは内心驚愕する。ドラゴン好きとしては、興味を惹かれる話だ。もっと聞いていたい、こんな状況でなければ。
「ドラゴンの親子は人間の親子と違って、石の卵に血を注いだ者、孵化の核となった者の想いの強さによって子供の容姿が決まるようです。誰の血も混ぜず、一人で孵化させた場合は、核となった者の容姿を写し取り、番で孵化させた場合は、核となった者の番相手への想いの強さによって似る部分を分け合う。つまり、核親の番相手への想いが半分位なら、産まれる雛(子供)の姿は、二人の父親の容姿を半分ずつ分け合ったものになるのでしょう」
その時、受け継いだ鱗(人型の時は髪色)が黒色なら黒竜(ブラックドラゴン)に、金色なら金竜(ゴールドドラゴン)になるのである。
「まあ、私とルークのように、産まれた子がここまで番相手に似るケースというのも、大変珍しいそうなのですけれど」
リュカが核親であるルークから受け継いだのは、瞳の色だけだ。それも、髪質は、ライサンのようなクセのある緩いウエーブがないだけで、ふわふわとした触り心地は一緒だ。
つまり、ルークのライサンへの想いがそれだけ強かったという事なのか?
「俺はドラゴンの末裔と言っても人間の血の方が遙かに濃く、この体、能力も、ほぼ人間です。ドラゴンとしてもイレギュラーな存在ですから、それも関係しているのでしょう」
憮然とした表情でそう言ったルークは、リュカが産まれた時の驚きを思い出す。
てっきり自分とよく似た容姿の子が産まれると思っていたのだ。何故なら、ルークは元々、卵に自分の血しか注いでいなかった。番とはいえ、人間であるライサンの血は混ぜていない。
ドラゴンの末裔であるジルとベルいわく、血を混ぜなくとも、番との交わりが深ければ、血を混ぜたと同等の事が起こるらしい。つまりリュカは、ライサンとの交わりの結果出来た子なのだ。そう考えると、普通の人間の夫婦と同じような気もする。
リュカが産まれた時のジルとベルの絶望の交ったような瞳と複雑そうな顔を今でも覚えている。そして、月狼(フェンリル)……神獣アシェイラの大笑い。
ーお前、ルーク……ッ、あはははは、お前、俺が思っていた以上にライサンに惚れてたんだな! ライサンの奴の執着ばかりだとばかり思ってたから、いや~~~~、意外だわ! がはははははッ!ー
恥ずかしさのあまり死ぬかと思ったルークだったが、当の本人であるライサンがそれについては何も言わず、リュカが無事に孵化した事だけを喜んでくれていた事だけが幸いだった。…………のだが。
(やはり、お前もそう思っていたのか)
セフィランに言い訳めいた説明をした後、自分の隣で穏やかな笑みを浮かべ続ける番相手に胡乱な目を向けるしかないルークだった。
成長するにつれ、リュカはライサンに似ていき、今ではまるで双子の兄弟のようだ。
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