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ほんの数分間
車の窓を叩く。
ドンドン……ドンドン……
「佐江! 佐江──」
中ではっとしたように佐江は車の窓を開けた。
「どうしたの? 佐江……この道、普段の道じゃないでしょ? この道、進めば進むほどさらに細くなって危ないのよ」
依子は早くで話し出す。
「うん。なんだか分からないのよ。なんでこっちに曲がったか。自分でもよく分からないの。なんとなく意識があってこの先進んじゃいけないって止められた気分にもなって……でもこっちにおいでって言われてるような感じにもなって、頭の中でそれがぐるぐる巡ってるって感じで……気づいたらこの道に入ってた……」
言葉がはっきりしていない。まるで今、夢から覚めたような話し方だ。
「そうなの? 大丈夫? しっかりしなさい」
隣を見ると良樹は眠っている。まるでずっと寝ていたかのように深い眠りについている。
「良樹もさっきまで起きてたのに……急に落ちたように寝ちゃって。いくら呼んでも揺さぶっても起きなくて……怖くなったんだけどそれでも曲がっちゃったの」
周りの騒ぎにようやく良樹が目を覚ます。しかし何が起きてるか分からない状態だ。
「何かあったんですか? なんだかいきなり眠気が襲ってきて。ふわってなって、ものすごく瞼が重くなって耐えられなくて。で、気づいたらお義母さんが騒いでいて……」
良樹はきょろきょろしている。
「ただ、不思議と行くなって止められてる力の方が強かったから車止めること出来たんだけど。それでも引っ張られてる気持ちがずっとあった……」
騒ぎに孝太郎も駆けつけて来た。
「何があったのさ? こんなところでさぁ……」
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