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甥と姪
お昼少し前のこと、ギターを抱えた妻の姉の子が、兄妹揃って我が家にやって来た。もちろん妻の姉からは前もっての連絡があってのことで、彼らの為のお昼も只今妻が準備中である。
兄の陽斗は小学6年生、妹の葵は5年生。持参したアコースティックギターは子供用ではなく一般用。これを持って20分以上も歩いて来たのだから、きっと大変だったに違いない。
そこまでして二人がやって来た理由と言うのは、最近興味を持ったバンドを将来的に結成したいらしく、その為のギターを妻に教えて欲しいと言うことなのである。
それでもいきなりエレキギターに手を出すのは、ハードルが高かったようで、取り敢えずはアコースティックから始めようと言う事らしい。
持参したギターも先月自前で購入したものなのだそうだ。
二人はギターを購入してから一か月弱の間、動画を参考にしながらかなり真剣に練習を重ねていたらしいが、動画では疑問の解決が難しく、思ったような進歩が見られなかったのだそうだ。
そこで二人はギターを習いに行きたいと母親に懇願したらしいが、理解を得ることは叶わず遭えなく却下。
ただ、その代わりとして二人は、妻がギターを弾けると言う情報を母親から教えて貰ったらしいのである。
そこから察するに、今日二人がギター持参でやって来たのは無償で二人の願いを叶えようと言う母親の魂胆であることは間違いなさそうである。
流石は妻の姉と言ったところだ…
実は、若い頃の妻はガチのアーティスト志望で、曲を自作しては頻繁に路上で弾き語りをしていたのである。なので、初心者に教えるには充分の腕前は持っている。
「さーちゃん、ギター上手いんだって?全然知らなかったよ」
兄の陽斗が妻に向ける眼差しには、いつになく尊敬の念が含まれている。
「それ程じゃないけどね。でもねぇ、実は私よりも”よっくん叔父さん”の方がギター上手いのよ。
今、お昼ご飯の準備しているから、”よっくん叔父さん”に教えて貰っててね」
その妻の言葉に、
「ホントによっくん、弾けるの?」
俺に疑いの目を向ける甥。
「まあ、ちょっとだけね」
取り敢えず控えめに…
「じゃあ、何か弾いてみてよ」
妻の子供たちは、俺たち夫婦の事を母の妻の姉と同じ呼び方で呼んで来る。
それは呼び名だけに止まらず、その口調や態度までもが一緒で、俺たち夫婦には叔父叔母としての威厳が欠片も存在していないのが実際である。
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