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そんな事情もあり俺に振られた以上、ここは一丁バシッと決め、一目置かれたいところではある。
実は若い頃の俺はギターオタク。人前で披露したことは数える程しかないが、ソコソコの自信は持っている。
だが、果たして二人はどの程度を期待してやって来たのかが分からない。
まさか、テレビや動画のプロレベルと比べられるとは思わないが、それなりの実力は期待しているかもしれない。
それに最近ご無沙汰だったので、不安が無い分けではない。
「じゃあ、昔のギター曲でもいいかな」
ここは二人が知らない曲でも、一番自身のあるギター曲を弾いて見せるのが無難と判断。
それにこの曲はちょっとお洒落なアレンジの部分もあるので、上手そうに見せるには打って付けでもある。
「なんでもいいよ」
俺の問いに甥がそう言ってくれる。
であれば方針通りで行くのみである。俺は、甥のギターを借りてまずはチューニング。
「凄っ、耳だけで出来るんだ」
それだけで、感動する二人。
おっ、これはいけそうな気がする。俺の背中に追い風が感じられる…
「じゃあ」
とばかりに、俺は歌詞の無いギターの名曲を弾き始める。
暫く弾いてなかったので何か所か間違えながらも、俺は誤魔化しながら弾き続ける。
まさか自分に振られるとは思わず、全く練習をしていなかったのが出てしまい出来栄えに不安が残る。ただ、二人をチラ見してみると、これが意外にも凄い目つきで俺の指先を追っている。
おっ!これは、イケる…
俺の追い風は吹き続けているようである。
俺たち夫婦には子供がいない。なので、子供の純粋に尊敬する眼差しは堪らなく感激してしまう。
いつもは低評価なだけに尚更そう思うのかもしれないけど…
弾き終えると二人からは揃っての拍手喝采。
俺って凄いのかも…と錯覚してしまいそうである。
「ね、よっくんおじさん上手いでしょ」
「うん、凄い。ホントに弾けるんだ」
「凄い凄い」
妻の上手さを促す言葉に、純粋に”凄い”と言う言葉を返してくれている二人。俺はその言葉に涙が零れそうなくらいに感激。
調子に乗った俺は、続いて陽斗の持参した弾き語りの本から二人と共通に知ってる曲を選ぶ。
それを簡単なアレンジで弾き始めると、なんとそれに合わせて二人が歌い始めるではないか。それがなんか凄い良い感じで、俺は理想の叔父と甥姪の関係がここに実現してしまったことに再び感激してしまう。
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