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「凄いよ、よっくん。バンドやってたの?」
曲が終えると、そんなことを甥が言って来る。彼に取ってはギターを弾けることがイコールバンドをやってっいたと言う解釈に繋がるようである。
「いや、只のギターオタクだよ」
「えーなぁんだ、勿体ないなぁ。バンドやればよかったのに…
ねぇ、他にも弾いてみせてよ」
「そうかぁ?じゃあ、そうだなぁ~」
更にもう一目置かせようと、俺は次を考え始める、するとそこに、
「お昼で来たわよ」
妻からのお昼の合図がある。そこで俺は思い立った。
やっぱ、次はあれしかないでしょう…
「じゃあ、もう一曲でお昼にしようか」
そう言って俺がイントロを引き始める。するとその瞬間、キッチンに居る妻が反応し、背筋をピンと伸ばした。
流石にこの曲への反応は早い。
妻は小走りに寝室に入って行くと、すぐさま中からはポロ~ンポロ~ンと弦を弾く音が聞こえて来る。
妻はチューニングの確認をしているようである。今朝、既に自分のギターのチューニングをしていたことを、もちろん俺は知っている。
妻の登場に合わせようと、俺が同じイントロを何度か繰り返し待っていると、余り待たせることもなく寝室のドアが開いた。
真打ちの登場である。
それを合図に俺はAメロに移行し、下手だけど歌いだす。すると寝室からギターを抱えて登場した妻が俺に合わせてギターを弾き始める。
久しぶりのセッションだが、昔のように息がピッタりなことに俺は嬉しくなってしまう。
俺はここで妻と目を合わせると、メインボーカルを妻に任せ、ハモリ担当へと移行。歌の苦手な俺は、主役からは解放される。
もちろん、この曲は懐かしの妻のオリジナル曲。
演奏していると懐かしさのあまりつい俺も乗ってしまい、サビを繰り返したり、間奏で妻にギターソロを入れてもらったりと、当時の事を思い出しながらついセッションを楽しんでしまう。
流石は長い付き合い。妻とは目と目を合わせるだけで、言葉を必要とはしない。
すっかり甥姪の二人を置き去りにしてしまったが、俺たちの演奏が終えると甥姪の確かな尊敬の目がそこにあった。
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