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「さーちゃん、ギターだけじゃなく歌も上手いんだね」
「ありがとう、良かった?」
姪の言葉にお茶目に問い返す妻。
「凄い良かった、ホント楽しそうで凄く良かった」
甥がそう応えると、
「も~凄~く良かったよ」
姪はそう言い妻に抱き着く。もう姪は妻に惚れているようにしか見えない。
妻の登場ですっかり俺の存在感は薄れてしまった気がするが、妻が目立つように俺がリードしたわけだから当たり前の話ではある。と、取り敢えず自分に言い訳をする俺。
「何て言う曲なの」
姪が聞いて来る。
そりゃあ知っているはずがない。超ローカルの古い曲なのだから。
「私のオリジナル曲よ」
妻が自慢げにそう応えると、更に姪からの尊敬の値が10ポイントUP。
「さーちゃんバンドやってたの?」
どうも、姪も”弾き語りが出来る”イコール”バンドをやっていた”になってしまうようだ。
「さーちゃんおばさんはねぇ、ソロでやってたの。残念ながらプロには慣れなかったけど、路上では少し有名にはなったのよ」
「そうなんだ。ねえ、早くギター教えて、ね、ね」
そう、せがむ姪。
「じゃあ、お昼が終わったら始めましょうか」
その言葉に甥姪の歓声が上がる。
お昼は、エビフライカレーとサラダ。
それを4人で食べながら、ギターの話に花が咲く。すると姪がその流れで、
「ねえ、路上ライブってどんなことをするの?」
まだ路上ライブを見たことが無い姪がそんな事を言い出す。
「そうねぇ~、じゃあ、ある人が路上ライブを始めた時の話をしましょうか」
そう言いだす妻。当然それは自分自身の話で、その登場人物として俺が現れるのは目に見えている。
俺としては二人に聞かれるのは少し恥ずかしい話なのだが、妻にはそうでもないらしい。
「じゃあ、始めるね。それは12年くらい前のことなんだけど…」
妻がその時の話を始めると、二人はそれを黙って興味津々に聞き始める。
その状況が、何かスターの昔話をしているみたいに見えてしまう。
もちろん、そのスターは妻だけなのだけれど…
因みに、カレーは兄の好物で、エビフライは妹の好物である。
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